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私たちの直感と自信過剰について(ダニエル・カーネマン『ファスト & スロー』)

今日は2002年に行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)の著作を中心に、行動経済学の重要な発見とその示唆を紹介していきます。

直感と自信過剰

(引用開始)

人々が自分の直感に対して抱く自信は、その妥当性の有効な指標とはなり得ない(中略)。言い換えれば、自分の判断は信頼に値すると熱心に説く輩は、自分も含めて絶対に信用するな、ということだ。

  • 十分に予見可能な規則性を備えた環境であること
  • 長期間にわたる訓練を通じてそうした規則性を学ぶ機会があること

この二つの条件をどちらも満たせるなら、直感はスキルとして習得できる可能性が高い。チェスは、規則性のある環境の代表例と言える。(中略)医師、看護師、運動選手、消防士が置かれる環境は、複雑ではあるが、基本的には秩序がある。(中略)これに対してファンドマネジャーや政治評論家が長期予想をする状況は、予測妥当性がゼロに等しい。彼らの予測がことごとく外れるのは、予測しようとする事象が基本的に予測不能であることを反映しているにすぎない

(引用終り)

本物のプロフェッショナルは、自分の知識の限界を十分に理解していて、不確実性や予測不可能性をきちんと理解していることが重要だと思います。何となく「大丈夫」とポジティブに思う気持ちは生きる上で大切ですが、同時に「現在良いから」「今後も良いはず」という楽観は、問題をすり替えている事に気づかなければなりません。

例えば人材採用や人事評価の際に、質問への受け答えや姿勢が良いから、今後任せる予定の仕事でも良いパフォーマンスになるはず、というのは、評価の尺度が変わってしまっている事に気づかなければならないわけです。

これらの問題のすり替え(ヒューリスティック;実は先述の「見たものがすべて」効果に起因し、複雑な問題ほど簡単な別の問題に置き換えられやすい)や妥当性の錯誤は、よく訓練されたプロフェッショナルでも簡単に陥ってしまいます。だから、何か重要な意思決定をする際は、チェックリストを使用したり(問題のすり替え予防)、会議の開始前に議題について自分なりの考えを必ずメモしておく(最初の発言者によるアンカリング効果の予防)、など様々なノイズとバイアスを外す努力が必要です

UnsplashのClay Banksが撮影した写真

自信過剰

①妥当性の錯覚ストーリーが首尾一貫してさえいれば、事実かどうかに関わらず、正しいと感じる)と、②「見たものがすべて」効果思い出しやすい事柄が過大に重要だと勘違いする効果で、例えば最近テロや自殺やイジメの報道が多いから、事実に関係なく増えていると感じる)が、自分の判断を正しいと思い込ませ、自信過剰になっていくそうです。自分の判断に自信を持っているときほど要注意です(自戒)。改めてマスコミが大衆心理の形成(というか誘導)に破壊的影響力があることがわかります(メディアの注意すべき点は拙投稿参考『何が民主主義を狂わせているのか;真犯人はマスメディアとフィルターバブルなのか』)。現代社会では情報収集の手段は多様化しましたが、それでも大抵の一次情報は独占・寡占されていることに注意したいところです。そして、自分自信の判断にも自信過剰に陥らないよう生きたいものです。

抗いがたい直感

これはおそらく長い進化の歴史の中で、システム1(早い思考:直感、スイッチ・オフできない)をシステム2(遅い思考:熟慮、同時に処理できる容量が限られている)に優先した方が、言い換えれば、直感を疑って判断を鈍らせるよりもシステム1に決断を委ねた方が生き残る確率が高かったからなのでしょう。

走行中の車で路上に転がる障害物を何かはっきり認識する前に避けるのはシステム1で、システム1の直感を後でチェックするのがシステム2です。システム2は怠け者で、システム1の直感をよくそのまま受容します。首尾一貫したストーリーを超速でこしらえ上げるのは、瞬発的な連想マシンを搭載しているシステム1で、ストーリーが首尾一貫していればいるほど、システム2が抗うことが難しく、システム1は結論に飛びつくマシンのように機能するそうです。

本書ではありませんが、ユヴァル・ノア・ハラリは矛盾した複数の事柄を同時に信奉できるのが、現生人類の素晴らしい才能だと語っていますが、実は一つのストーリーの中では首尾一貫している方が正しいと感じるのですね。そしてそのストーリーがどんなに馬鹿げていて事実に反していても、首尾一貫してさえいれば、信じることが出来る(事実に反する事柄や宗教やフィクションを生み出せる)。ハラリの主張から類推すれば、あるストーリーと別のストーリーとの間の矛盾は干渉しないのだと思います。

だから、一方で基本的人権の尊重と権利の平等を大切にしながら、他方で経済的利益のために他者の権利を蔑ろにする事を平気でやってのけ、非暴力の大切さを訴えながら、抑止力の大切さを脳の別の領域で理解するのでしょう。あるいは魔法の世界や異世界転生生活を夢想しながら、現実世界で器用に生きています。

さらに、システム2が決断を下す際にも、システム1が強力な影響を与えていることもわかっています。

人間の顔写真だけを見せて、その人の能力や好感度などを評価してもらい点数をつけさせる。学生たちは何も知らされていないが、実は実際の選挙を闘った政治家たちの顔で、なんと上・下院・州知事選挙で当選した人たちの約70%が、顔写真だけをみて「能力が高い」評価を得た人でした。米国だけでなく、その後フィンランド、メキシコやドイツ、イギリス、オーストラリアなどの地域でも同様の実験をし、同じ結果を得ているとのこと。これは恐るべき事実です。

論理的に考えれば、当然顔写真だけを見て「能力が高い」かどうか評価はできません。そのことをシステム2がきちんと理解しているにもかかわらず、相関関係が70%もあるという事は、何らかの過程でシステム1の直感的判断が強力に影響している可能性を示唆しています。

以上述べてきた通り、システム1の直感がこしらえたストーリーが首尾一貫していればいるほど、システム2が抗うのは容易ではありませんが、重要な意思決定をする際は、このことをきちんと考慮に入れる必要があります。例えば投資することが確定しそうな役員会議の場で、仮に「5年後に事業が失敗して撤退又は減損を余儀なくされる。その理由は何か」という頭の体操をしてみると、集団浅慮を回避できるかもしれません。

ちなみに著者のダニエル・カーネマンは行動経済学の功績で2002年にノーベル経済学賞を受賞しますが、本来は心理学者です。その後リチャード・セイラーも2017年に行動経済学でノーベル賞を受賞し、行動経済学だけで近年二回もノーベル賞が出るのはそれだけ重要領域になっているということです。伝統的経済学(いわゆるミクロ・マクロ)が限定合理性理論を無視し続けているのも、ある意味でこれまで膨大な時間を費やして発展させてきた合理的意思決定モデルを、破壊したくないという損失回避バイアスなんだと思います。

アンカリング効果とハロー効果を理解しよう

特にアンカリング効果はめちゃくちゃ強烈で、その道のプロフェッショナルの判断でさえ簡単に歪められるとのこと。これは危険ですね。ビジネスでも日常生活でも、きちんと意識して対策しないと重大な錯誤を生みます。

■アンカリング効果① いくら寄付しますか?1.あなたは〇〇での災害に1,000円以上寄付しますか?2.あなたは〇〇での災害に50,000円以上寄付しますか?⇒2の質問をした方が圧倒的に寄付金額の平均が上がる。

■アンカリング効果②

スーパーの特売 1.安売り商品おひとり様10個まで 2.安売り商品おひとり様制限なし⇒1の方が2より倍近い数購入される。

■アンカリング効果③

不動産の買値を決めてもらう1.売手の言い値が非常に高い2.売手の言い値が非常に安い⇒不動産の専門家にそれぞれ売手の言い値だけが違う資料を渡して買値を決めてもらうと、あら不思議。1.の方が圧倒的に高い。そして専門家は口々に売手が提示した価格など参考にしていないと言い張る。

■ハロー効果 政治家・芸能人が嫌い

本当はその人の政治思想や政策が気に入らないだけなのに、人物そのものや顔やしぐさまで全て嫌いになる現象。最近のジャニーズ外しも、全く別の領域で問題が生じているのに、イメージが毀損するとそれ以上に深刻な嫌悪に繋がる恐れがあるため企業がこぞって降板させている。

運と偶然性の軽視、相関関係と因果関係は違うのだ

自分が今まで読んだ本の中では結構大切にしていた『ビジョナリー・カンパニー』シリーズ(ジム・コリンズ)も超酷評されていて、目から鱗がボロボロ落ちました。これぞまさに相関関係と因果関係は違うのだ、という科学の根源に刺さる評論だと思います。

人間の脳は偶然性や運の重要性を軽視し過ぎる傾向にあり、どうしても成功した企業や人間の理由をつけたくなるが、実際はいずれのケースも偶然が重なって幸運だったこともまた事実なのです。

だからスタンフォードの博士課程にいた二人の技術者が高度な検索技術を駆使して会社を大きくしつつある中、百万ドルでバイアウトしようと検討した際に「高すぎる」と断られた偶然や、その他資金調達や競合との関係で様々な幸運がなければ今の巨人グーグルがないことは多くの人が無視するストーリーになってしまう。「ヒトラーは実は犬や小さな子どもたちが大好きだった」という事実は、冷徹無慈悲の人間像と首尾一貫しないから、簡単に無視され、一方で「ヒトラーは自らの側近にも冷酷無慈悲で片時も配慮することはなかった」という嘘のストーリー(本当は親衛隊にきめ細かく心を配り、誕生日祝いまでしていた)を信じたがるのです(ちなみにこの首尾一貫性を求めるシステム1の性質がハロー効果を生み出している)。

特に医師や経営者、政府や政治家など、誰かに変わって意思決定を行う人の判断については、その判断そのものの適切性よりも、様々なオペレーションや不測の事態の発生など偶然発生した結果が重視される傾向(判断が悪かったから結果も悪かったと思いたがる傾向)にあるのも、この首尾一貫バイアスのせいだと思われます。これは評価する側も注意する努力が必要だが、やはりどうしてその判断をしたかの説明や、なぜうまくいっていないか、あるいは不確実性についての事前の十分な説明などについて、やはりコミュニケーションが大切なのだと思います。自分もプロフェッショナルとして、冷静に課題に対処しつつ、その判断の過程やなぜそうしようとしているかなど、十分にわかりやすく説明することが大切だなあとつくづく感じました。

行動経済学は死んだのか

ここまでダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)を中心に行動経済学の示唆を紹介してきましたが、実は経済学を中心に極めて多岐にわたる社会科学の学者らから、痛烈な批判にさらされてきました。また、ウォルマートの行動科学のヘッドを務めているジェイソン・フレハ(Jason Hreha)という人物から、「行動経済学の死」と題された記事まで出されています。

批判の多くは、行動経済学の基礎となる様々な実験の重要な発見が、再現失敗となるケースが多い点や、そもそも実験自体の質問の建付けが誘導尋問のようなやり方に問題があるなど、たくさんの批判があります。重要な発見の多くが、限定的な環境下でそれが再現できるに過ぎないことが多いため、現実世界での応用はテクニックがいるし、ほぼ効果がないかもしれません。

ただし、こうした批判は正直社会科学のほぼ全ての分野にも当てはまる(何なら伝統的経済学の合理的意思決定モデルは完璧にフィクション)ものである事と、心理学の世界では、参照点(最初の心の中のポジションのようなもの)が重要で、そこからどれくらい乖離しているか・変化するかが重要な着眼点なので、同じ質問を別の人にしても全く異なる効果が出現する可能性が高い(つまり再現できない)のです。

なので、行動経済学の重要な発見が全く無価値というわけではなく、現実を見て活用できる部分は活用する、でよいのだと思います(記事の中でフレハはたった数%の効果しかないと批判していますが、十分有意な差だと思います)。まあ、ダニエル・カーネマンもユヴァル・ノア・ハラリも凄く刺激的で面白いけど、あまりにも他の領域を破壊しかねない、ともすれば遺伝子と神経が生み出すアルゴリズムがすべてを決定しているような錯覚に陥りがちになるので、異端視されているのにはやはり理由があるわけですね。

参考文献

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これからの日本経済見通し(中短期)について;インフレと株高と

インフレ大爆発の予兆

ここ数日体調不良で家に籠っていたのですが、いろいろ考えて、日本でインフレが今後大爆発していく未来が見えました。某YouTubeチャンネルを拝聴して妙に納得しました。日銀の対応は遅きに失している可能性が高く、既にだいぶ前から手遅れだったかもしれません。あまりにも長期に渡って量的緩和をやりすぎて、もはや戻れない地点まで来てしまっている可能性があります。日本はデフレが長すぎてインフレの恐ろしさをみんな忘れ切っているけれど、、。

確かにコロナ禍やウクライナ侵略によるサプライチェーンの混乱(あと半導体の中国締め出しも)等からくるコストプッシュインフレと説明する人が多いです。しかし、これらもある程度落ち着いて平常を取り戻しつつある世界の中で、なぜ金利を上げまくっている米欧でインフレが大爆発を継続しているのか。全く止まりません。ディスインフレはまだまだ遠いでしょう。英欧はこのままスタグフレーションに突入する公算が大きいです。

今のインフレ率で米国が完全雇用に近づいている現状を見れば、安定2%という水準さえ見直されるかもしれません(もともと米国は雇用と物価と金利の密接な関係(フィリップス曲線)を利用して、低位安定した物価で最大の雇用を達成することを中銀政策の中枢に据えていて、2%は経験的に最も効率よく最大雇用を達成できるインフレ率だった)。
むしろ本当のインフレの原因は全世界の中央銀行と政府が実行した未曽有のスーパーばら撒きによる財政インフレなんでしょう。ということは、これが多少引き締め局面になったところで、既に撒かれたカネは家計に留まっていて、中銀のBSはまだまだ肥大したままで、市中のキャッシュは溢れたままです。インフレが全然収まらない米欧を観ればわかる通り、日本もこれから爆発して全然止まらない可能性が高いですね。人手不足が深刻で、賃上げして価格転嫁して、市中の資金が還流しはじめて、そこでコロナによる行動規制が緩和されて消費が大爆発する。既に日本の高級ホテルなんかも見たことない価格になっていますが、それでも客が入る。価格の上昇は継続していくのでしょう。

そしてインフレ(厳密には期待インフレの上昇)になれば、現金から逃避して現物(商品)や不動産や金融商品に流れ、株高になる。ちなみにこの動きが加速して過熱して収まらなくなると、それこそが正にバブルとなります。とどまることを知らない資産価格の上昇のスパイラルが、最終的に総量規制という劇薬で弾け飛んだのが正に日本のバブル崩壊でした。

コロナ禍はバブルだったのか?

コロナ禍では世界中のリスクフリーレート(RF)が極限まで下落したため、将来キャッシュフロー(将来CF;それが株ならば、将来の企業業績)は減少しているのにフェアバリュー(FV*)が増加する不思議な現象が発生していました(当時監査で相当専門家と議論しましたが、ERPは短期間に急激に変化しないという前提からRFが低下すれば割引率も低下する、ということらしい)。

*FVは、将来CFを割引率で現在価値に割戻した価値の合計で算定されます。超ラフに言えば割引率はRFとリスクプレミアム(主なリスクは、企業ならERPと呼ばれる)の足算。FVは将来CFと割引率の二つが決めていて、将来CFが増えればFV増、割引率が低下すればFV増。

つまり将来の不確実なCF(しかもコロナ禍に突入したばかりの頃は本当に全く見通しが立たなかった企業も多かったはず)の多寡よりも、いま目の前で確実に算定できる割引率の方が遥かに影響が大きかったということ。株価はそのため当然プラスで、誰かがバブルだとか騒いでいたけど、FVの上昇に伴うものなので、全くバブルではありませんでした。むしろいま日本でもRFが上昇する中で、株価が上昇するのは異常なのだけど、そもそもPBR・PERが異常に低かった日本の株価がFVじゃなかった説(これがジャパンディスカウントか)。冷静に考えて、PBR1倍割れ(解散して株主にお金返した方が株主に有利)が当たり前の日本企業とか意味不明だからね。また、インフレと円安継続で輸出産業にプラス・かつ大部分国内消費で食っている日本企業のCF(企業業績)が相当良くなるため、むしろ微々たるRFの上昇よりもCF改善が貢献するのでしょうか。それがバフェット氏が日本株に投資した真意なのかもしれません。そして現物、特にコモディティをふんだんに取り扱う商社株なんだと、そういうことでしょうか。

世界のインフレとの闘い

IMFも長期化するインフレとの闘いを世界の主要なリスクの一つに数えています。「世界経済のコロナ禍からの回復は鈍化し、セクター・地域によって回復ペースにばらつきが拡がっている」(The global recovery is slowing amid widening divergences among economic sectors and regions)様相を呈しています。

世界では、トルコは一昨年から超インフレ状態で、アルゼンチンでも超インフレ発生、集団強盗の多発など社会は混迷を極めています。中国も(おそらく)不動産がバブル崩壊し、異常な社会環境になっているはずですが、彼の国は正確な情報が出てこないので不透明です。一方、欧米もインフレが高進していますが、逆イールドが300日を超えて発生している米国も、おそらく今後極めて高い確率でリセッション(不況期)に突入し、既に述べた通り英欧もスタグフレーション(不況期かつインフレ)に突入していきます。

東証のマーケット再編~インフレと株高と

今後日本もおそらくインフレに苦しむが、ここからどのように不況に突入せず軟着陸できるか、中央銀行と政府の手腕が問われています。本日三連休初日ですが、いつも自分が車を止めている駐車場はほぼ全ての車が出払っています。正直こんなに車がないのを初めてみました。これが消費の爆発。コロナ禍で遊べなかった分の反動が強烈なパワーで押し寄せてきています。皆口ではガソリンの高騰で苦しんでいると言っておいて、実はそんなことなんかお構いなしに遊び回っています。

日本だけが、先進国で唯一ゼロ金利とイールドカーブ・コントロール(YCCは世界で唯一)を継続しています。これが未来永劫変わらないわけがない。植田総裁も前回の会見で、引き締め局面に移る可能性をじわり示唆しています。また、先般の東証のマーケット再編で、一部・二部・マザーズはプライム・スタンダード・グロースになりましたが、ただ名前を変えただけではありません。時価総額や流通株式数などの厳格な基準を設けて、それを3年以内に満たさない企業は、降格か最悪上場廃止になります。今まで株価を一ミリも気にしてこなかった日本のエリートサラリーマン社長たちが、上場維持のため、必死こいて株高政策を打ち始めます。余りまくっている資金を利用して自社株買いに邁進するか、配当増やすか、投資を増やします。しかも賃上げと価格転嫁が求められ、いままでずーーーぅっと、値上げせずに耐え、リスクを下請けに押し付け、賃金減らし、投資減らし、デフレマインド経営を続けてきた企業経営者が、完璧にインフレマインド経営をぜざるを得ない環境に追い込まれています。

問題はこの環境が持続するかどうかですね。とりあえずこのストーリーならインフレと株高が高進するしかない。やはりメインシナリオはこれですね。

【参考】

IMF『WEO Update JULY 2023』

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日銀の為替介入と金融政策;この先の日本経済の行方は

日銀の為替介入(2022/9/22)について

日銀砲がついに炸裂しましたが、影響軽微のためただ相場を荒らしただけという噂が、。完全に相場から足元見られています。
そもそも為替介入をする前に中央銀行としてやるべきことがあります。世界が金融引締めに進む中、日銀だけ金融緩和継続しているのが円安の原因なのは明らかなのだからその修正が必要です。
また、介入を流動性の高いロンドン時間にやったのも失敗だと思います。本気で円安沈静化させたいなら流動性の低い時に一気に間髪入れずに投機筋を焼き切るようにやるのが普通だと思うんですが、協調介入でも狙ってたんでしょうか?しかし政策修正しない限り、ECB・FRBは理解してくれないし、まして協調介入なんて望めないでしょう。

しかしこんなに大騒ぎして、週明けすぐに「介入したんだけど、ドル円直ぐ戻っちゃいました」となったらあまりにも恥ずかしいです。本気度が試される一回目の介入でしたが、。このまま終わったら残念です。ただ荒らしただけの介入。

値動きとしては夕方の介入からすぐに半値戻し、その後恐らく夜21時すぎまで介入は続いていたものと思われます。145.90円から140.36円に断続的に急落しましたが、その後反発し現在は142~3円前後をうろうろし、既に焼け石に水感が出ています。ECB・FRBとも協調介入ではないとの声明あり、日銀の単独介入であることがわかりました。すると原資は外貨準備高が上限で、前回介入の規模から推測すると、外貨準備の1割くらい使ってる可能性があります(規模は前回からのただの類推で根拠なし)。

たったコレだけで一割近くも使ったのか!と財務省と日銀の緊張感は計り知れないでしょう。

隘路に立たされる政府・日銀の金融政策について

日銀介入から丸一日以上経過した本日週末は、高値から半値以上戻し、完璧に日々の変動の中に収まっています(下図参照)。まるで意味なし。ボラの高い最近の市場ではこの程度普通に毎日動いています。もはやギャグでやってるんですかね、、?世界中から無意味な介入を痛烈批判されています。財務官の発表では「為替介入の判断の決め手は、円相場の水準そのものではなく値動きの荒さ」といっていますが、自分たちが一番値動きを荒らしています。金融政策を修正しない限りいまの潮流は変わらないし、この先円安はもっと進行します。

むしろトレンドに逆らって、先にやるべきこと(金融政策の修正)を実行せず、上限のある円買いドル売り介入に踏み切った市場への影響は、サマーズ氏のいうように、相場を荒らして短期筋のチャンス作ってるだけの愚行です。

たしかに現状選択肢がほぼなく、政策的な隘路に立たされているのはわかります。政府も政治家も国民も変化による痛みを恐れすぎていて、何もできない袋小路に入り込んでいます。

むしろその意味では、ゾンビ企業を増大し続けてきた日本の長年に渡る大規模金融緩和と、さらにコロナ禍によるその拡大が今の環境を作ってきたわけで、黒田氏の来春退任が迫る今こそ後任人事を本気だして政策を修正するタイミングだと思います。先日TICAD8でも露呈した通り、アフリカでの日本企業の存在感はあまりにも小さく、このままだと日本はアフリカの成長を確実に取りこぼします。グリーンもデジタルも先進主要各国で一番遅れているグループにいます。いい加減に政府も国民も本当の問題に向き合うべきです。こんな環境でイノベーションも経済成長も起こりそうにありません。

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日経続落(Nikkei continued to fall)

昨日に続き、世界の株式市場は軟調で、特に日経は本日も2%近く下げ、二日で5%近くの大幅な下げでした。

World stock market was weak and rather weaker Nikkei that continued to fall today by about 2% and around 5% drop comparing to two days ago.

Linkは下記。左の画像は2021.5.13.00:25時点の切り抜きです。

https://sekai-kabuka.com/

日経は今までの株高の調整もあると思いますが、主要国市場よりも大幅な下落です。日本円も非常に弱いので、やはりコロナワクチン接種の遅れが、主因ではないかと思います。

The larger decrease in Nikkei than world market seems due to the delayed vaccination for COVID-19.

2021年4月26日時点で、日本のワクチン接種比率は人口のわずか1.64%で、先進国では既に英国が50%に迫り、米国も40%を超えています。あの感染大爆発を起こしているインドさえ8.7%接種していて、途上国や低所得国もはるかに下回る水準となっているのが、残念ながら我が国日本でございます。

Japanese vaccination rate is only 1.64% comparing to 50% in the UK, 40% in the US and even below India of 8.7% (as of 26 Apr 2021).

https://ourworldindata.org/covid-vaccinations

少し本題から逸れましたが、前の動画でもご説明した通り、今後の経済回復予測における最大のリスク要因はワクチンの接種スピードです。

Back to the subject the main risk factors in the economic recovery is the race between virus and vaccination that I mentioned in the previous YouTube movie.

つまり日本経済はいまIMFのシナリオから下振れしつつある状況で、日経が調整に入ったのではないかと思います。そして調達通貨(金利があげられない円で借りて、次に金利が上がりそうな外貨を買う、つまり円売り)としての需要の呼び水となっているのではないかと思われます。

Then, I guess this drop is triggered by the belated vaccination in Japan, which seems to fall behind the main scenario in the IMF WEO update Apr 2021.

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アフターコロナの経済について;IMFレポートによる今後の経済の見通し

YouTube動画を公開しました!

IMFがWorld Economic Outlook, April 2021を公表しました。今般のCOVID-19パンデミックで世界経済に起こったことについて、体系的にまとめられていますので、内容を要約してお話しています。

COVID-19パンデミック下で世界経済に起こったこと、そしてこれから先に起こる事、今後の経済で留意すべき事等をお話していますので、是非ご覧ください。

世界経済に起こったこと

  • コロナショックは産業領域及び経済圏によって、不均衡な悪影響を与えました。いわゆるエッセンシャルな領域(消費財、飲料食料品、インフラ、医療、警察、国防など)やアウトドアサービス以外の、高度の接触を要するサービス関連(”High-Contact, Affected”、レストラン、ホテル、旅客運輸、物理店舗lの小売など)が最も大きな打撃を受け、途上国の経済損失は先進国よりも深刻です。
  • 過去のパンデミックや経済危機よりも、経済収縮は急激に起こり、特に”High-Contact, Affected”が深刻な打撃を受けました。また、産業連関における負の波及効果をもたらすと予想されます。
  • 中期(向こう3年)の経済的損失は、先進国・途上国でリーマンショック期より少ないが、低所得国ではリーマンショックよりも大きな損失を被ることが予測されています。
  • ”High-Contact, Affected”セクターにおける雇用が最も大きく減少し、先進国より途上国の方が深刻です。過去の不況期の平均的特徴(建設業や製造業が最も大きく減少)と異なり、特に小売・卸、ホテル、レストラン、旅客運輸及びエンタメ関連での雇用減少が顕著に見られます。また、これらは自動化されやすい業態として、 パンデミック前からの潮流が加速し、さらなる雇用の減少が見られます。

After コロナの経済について

  • 多くの大切な命が失われました。たくさんの方々が職を失い、特に女性や若者、貧困国の人々はより大きな経済的損失を受けています。経済的な格差はグローバルなレベルで今後さらに進行することが予測されます。
  • 教育は中断し、学生たちは長期にわたって学校に通うことがかないませんでした。学校閉鎖は社会の人材育成を阻み、社会経済に深い爪痕を残す恐れがあります。
  • リーマンショックをはじめ過去の不況期と異なり、企業破綻の数はコロナ禍で減少しました。
  • 一方、前例のない規模の財政・金融支援政策により、世界の中央銀行の資産は極端に膨らんでいます。今後、政府及び中央銀行はこれらの膨らんだ資産(不良債権を含む)の処分に悩まされます。コロナ禍の終息と共に、これらの資産の処分とゾンビ企業の支援継続との間で、各国政府は判断を迫られて行く事になります。

やはり、注目すべきは政府及び中央銀行における金融緩和の縮小(テーパリング)でしょう。既にカナダの中央銀行はテーパリングを決定していて、リーマンショック期と異なり経済回復が急激に起こっている現実からすると、欧米各国(特に米国、英国、豪、NZ)では次にテーパリング、金利引き上げ、B/S縮小はもうすぐそこまで来ている可能性があります。

そしてそんな中でワクチンの接種比率が後進国以下の日本では、大変残念ながら経済回復は確実に立ち遅れていくと思います。

YouTube動画を是非ご覧ください。チャンネル登録とイイネボタン押下をお忘れなく!

【参考文献】

International Monetary Fund 『WORLD ECONOMIC OUTLOOK UPDATE』(2021.4)

・UNESCO Website : https://en.unesco.org/covid19/educationresponse#durationschoolclosures

International Monetary Fund 『Global Financial Stability Report』 (2021.4)

ご自由にダウンロードください。動画・資料等を無料でご利用いただいてもかまいませんが、営利目的でご利用される際は必ず私までご一報ください。社内研修等も承っております。

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これからの経済成長と正義について;ポスト新自由主義とロールズの思想

Future economic growth and the Theory of Justice, Rawls

YouTube動画を公開しました!是非ご覧ください。チャンネル登録とイイネボタン押下をお忘れなく!!

Uploaded YouTube movie! Please view and register my channel as well as push the Good button! (Auto-translation seems working good)

『これからの経済成長と正義について』、という何ともいかめしいタイトルでお送りします。それなりに資料も使って作成していますので、これまでとこれからの経済的社会的潮流を予想する上で参考になるかと思います。以下は動画の概要です。

『。新成長戦略』とこれまでの経済

2020年で経済至上主義の時代は終わりました。新自由主義を乗り越えるべく、私たちは新たな時代の価値観と経済成長観に対応していかなければなりません。

  • 2020年11月7、経団連はこれまでの行き過ぎた新自由主義を乗り越えるべく、 持続可能な成長を目標とした『。新成長戦略』を発表しました
  • 「新自由主義」は1970年代の時代の要請から市場原理への回帰として現れました
  • 現代の社会は、各国レベルでもグローバルレベルでも行き詰まりを見せています

ではなぜ行き詰まりを見せているのでしょうか?

そう、そこには「哲学」がありませんでした

  • 「新自由主義」はあくまで経済学の一学派でしかありません。
  • 経済学は長期の経済成長を実現したため、社会科学の王者のごとき地位を占め君臨してきました。
  • 同時にこの時期は、社会学的にいえば1968年を起点とする後期近代の幕開けと、功利主義の挫折を中心とする道徳哲学・倫理学の低迷の時代でした。

ロールズの正義論と「望ましさ」の探求

後期近代は何が「望ましい」のかわからずに突き進んできました大切なことは、「どうやって望ましさを実現するか」という方法論ではなく、「何が望ましいか」という問いかけです

  • 「新自由主義」には、「社会のあるべき姿」や「望ましさ」への問いはありませんでした。
  • 望ましい社会状態への問いは保留のまま、物質的資本主義的な発展を遂げていくことになりました。
  • 自生的秩序は自生的であるが故に「良いものだ」とする判断は、その状態が望ましいかどうかについての反省的回路を欠いている、という点で極めて重大な欠陥があります。
  • 「望ましさ」に対する問いは経済学にはないので、例えば「経済成長しているのだから、新自由主義は望ましいのである(経済成長=望ましい社会状態)」という論理になってしまいますが、そこには「なぜそれが望ましいのか」という思考がありません。
  • いま、世界では環境破壊と経済格差の問題だけでなく(おそらくいずれの問題もこれらと密接に関係しているが)、深刻な課題を無数に抱えていて、閉塞感が時代の気分になりつつあります。
  • 「望ましさ」への問いを新たにし、人類が囚われている運命の袋小路を乗り超える叡智が、21世紀を生きる私たちには求められています。

規範的社会理論の長いまどろみを破ったのはジョン・ロールズの『正義論』(1971)でした

  • 新自由主義を正当化するトリクルダウン理論などと親和的な哲学である功利主義が挫折(アローの不可能性定理、1951年)して久しいにも拘らず、主に経済学の専門家たちによってさまざまな理論装置を用いた「社会的望ましさ」へのアプローチが見られました。
  • 従来的な知的権威が信用を失墜し、新たな価値観が希求されている時代に、哲学の立場からはほとんど何らの取組もなされませんでした。
  • 「社会の望ましさ」の概念を、諸個人が社会からどのような効用(善)を受け取るかという問題のレベルからいったん切り離したところに設定し、社会の道徳性を表す価値としての「正義」を定立しました。
  • 「最大多数の最大幸福」というスローガンで見過ごされていた個人の利益分布の不平等に配慮し、利益がどのように分配されるかについて、適切な取り決めを正義は求めます。
  • 協働の体系を持ったアソシエーションとしての社会では、人々の出入りは基本的に自由であり、人々がそこに参加するのは、「社会的協働」がすべての人々に、一人で生活する場合よりも良い生活をもたらすことができるからです。そして、それは人々が自発的に社会に参加するための条件をなしていると説明されます。

ジョン・ロールズの『正義論』は革新的でした

  • ロールズの理論を全面的に支持する論者は現在ではほとんどみられないものの、功利主義を乗り越えて一貫した価値の体系を提供したことは非常に重要な取組でした。
  • ロールズの『正義論』以降の後期近代では、彼の『正義論』に挑戦しながら、実に様々な思想と哲学が花開き、リベラリズム、リバタリアニズム、マルクス主義にとどまらず、コミュニタリアニズム、シティズンシップ、フェミニズム、多文化主義などの多種多様な言説と思想が展開していきました。繰り返しになりますが、現代を生きる私たちの前には夥しい量の研究成果と多種多様な世界観や理論を手にしています。そのために、特定の問題にさえ、何が「望ましい」のかについての明瞭な答えがなく、雑多な文化・宗教と価値観が共存する社会の真っただ中にいます。
  • そして、人類が後期近代において「望ましさ」を探求する旅路は始まったばかりであり、いまだ途上にあり、多種多様な価値観と文化が共存する中で、いかにしてできるだけ多くの人々が幸福に心豊かな毎日を過ごすことができるのかを考える必要があるのです。

これからの世界経済の潮流とリスクシナリオ

『。新成長戦略』によれば、企業には環境・社会・優れたガバナンスを達成し、すべてのステークホルダーへのコミットメントが求められています。SDGsの達成目標も次世代の潮流を推測する参考になります。

COVID19パンデミックによって世界経済は深刻な打撃を受け、経済格差はさらに拡大しました

私たちの前には依然として明るい未来があり、2021以降の世界経済は回復が見込まれています

経済回復のスピードは国によって大きく異なり、各国の医療体制、政策、及びワクチンの供給スピードなどに大きく依存しています

世界ではワクチンの争奪戦が起きており、各国のワクチン接種比率の上昇スピードに大きな格差が見られます

「GreatReset」する世界のこれから

コロナ禍を抜け出し、世界は「Great Reset」していきます

SDGsの目標や『。新成長戦略』は単なる例示(”WHAT”あるいは”HOW”)にすぎません。私たち一人一人が「望ましさ」への問いかけを始めるべきです

価値観の変化を引き起こすマインドパワーこそが現生人類を生きながらえさせた最大でユニークな力です

【参考文献】

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