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私たちの直感と自信過剰について(ダニエル・カーネマン『ファスト & スロー』)

今日は2002年に行動経済学でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)の著作を中心に、行動経済学の重要な発見とその示唆を紹介していきます。

直感と自信過剰

(引用開始)

人々が自分の直感に対して抱く自信は、その妥当性の有効な指標とはなり得ない(中略)。言い換えれば、自分の判断は信頼に値すると熱心に説く輩は、自分も含めて絶対に信用するな、ということだ。

  • 十分に予見可能な規則性を備えた環境であること
  • 長期間にわたる訓練を通じてそうした規則性を学ぶ機会があること

この二つの条件をどちらも満たせるなら、直感はスキルとして習得できる可能性が高い。チェスは、規則性のある環境の代表例と言える。(中略)医師、看護師、運動選手、消防士が置かれる環境は、複雑ではあるが、基本的には秩序がある。(中略)これに対してファンドマネジャーや政治評論家が長期予想をする状況は、予測妥当性がゼロに等しい。彼らの予測がことごとく外れるのは、予測しようとする事象が基本的に予測不能であることを反映しているにすぎない

(引用終り)

本物のプロフェッショナルは、自分の知識の限界を十分に理解していて、不確実性や予測不可能性をきちんと理解していることが重要だと思います。何となく「大丈夫」とポジティブに思う気持ちは生きる上で大切ですが、同時に「現在良いから」「今後も良いはず」という楽観は、問題をすり替えている事に気づかなければなりません。

例えば人材採用や人事評価の際に、質問への受け答えや姿勢が良いから、今後任せる予定の仕事でも良いパフォーマンスになるはず、というのは、評価の尺度が変わってしまっている事に気づかなければならないわけです。

これらの問題のすり替え(ヒューリスティック;実は先述の「見たものがすべて」効果に起因し、複雑な問題ほど簡単な別の問題に置き換えられやすい)や妥当性の錯誤は、よく訓練されたプロフェッショナルでも簡単に陥ってしまいます。だから、何か重要な意思決定をする際は、チェックリストを使用したり(問題のすり替え予防)、会議の開始前に議題について自分なりの考えを必ずメモしておく(最初の発言者によるアンカリング効果の予防)、など様々なノイズとバイアスを外す努力が必要です

UnsplashのClay Banksが撮影した写真

自信過剰

①妥当性の錯覚ストーリーが首尾一貫してさえいれば、事実かどうかに関わらず、正しいと感じる)と、②「見たものがすべて」効果思い出しやすい事柄が過大に重要だと勘違いする効果で、例えば最近テロや自殺やイジメの報道が多いから、事実に関係なく増えていると感じる)が、自分の判断を正しいと思い込ませ、自信過剰になっていくそうです。自分の判断に自信を持っているときほど要注意です(自戒)。改めてマスコミが大衆心理の形成(というか誘導)に破壊的影響力があることがわかります(メディアの注意すべき点は拙投稿参考『何が民主主義を狂わせているのか;真犯人はマスメディアとフィルターバブルなのか』)。現代社会では情報収集の手段は多様化しましたが、それでも大抵の一次情報は独占・寡占されていることに注意したいところです。そして、自分自信の判断にも自信過剰に陥らないよう生きたいものです。

抗いがたい直感

これはおそらく長い進化の歴史の中で、システム1(早い思考:直感、スイッチ・オフできない)をシステム2(遅い思考:熟慮、同時に処理できる容量が限られている)に優先した方が、言い換えれば、直感を疑って判断を鈍らせるよりもシステム1に決断を委ねた方が生き残る確率が高かったからなのでしょう。

走行中の車で路上に転がる障害物を何かはっきり認識する前に避けるのはシステム1で、システム1の直感を後でチェックするのがシステム2です。システム2は怠け者で、システム1の直感をよくそのまま受容します。首尾一貫したストーリーを超速でこしらえ上げるのは、瞬発的な連想マシンを搭載しているシステム1で、ストーリーが首尾一貫していればいるほど、システム2が抗うことが難しく、システム1は結論に飛びつくマシンのように機能するそうです。

本書ではありませんが、ユヴァル・ノア・ハラリは矛盾した複数の事柄を同時に信奉できるのが、現生人類の素晴らしい才能だと語っていますが、実は一つのストーリーの中では首尾一貫している方が正しいと感じるのですね。そしてそのストーリーがどんなに馬鹿げていて事実に反していても、首尾一貫してさえいれば、信じることが出来る(事実に反する事柄や宗教やフィクションを生み出せる)。ハラリの主張から類推すれば、あるストーリーと別のストーリーとの間の矛盾は干渉しないのだと思います。

だから、一方で基本的人権の尊重と権利の平等を大切にしながら、他方で経済的利益のために他者の権利を蔑ろにする事を平気でやってのけ、非暴力の大切さを訴えながら、抑止力の大切さを脳の別の領域で理解するのでしょう。あるいは魔法の世界や異世界転生生活を夢想しながら、現実世界で器用に生きています。

さらに、システム2が決断を下す際にも、システム1が強力な影響を与えていることもわかっています。

人間の顔写真だけを見せて、その人の能力や好感度などを評価してもらい点数をつけさせる。学生たちは何も知らされていないが、実は実際の選挙を闘った政治家たちの顔で、なんと上・下院・州知事選挙で当選した人たちの約70%が、顔写真だけをみて「能力が高い」評価を得た人でした。米国だけでなく、その後フィンランド、メキシコやドイツ、イギリス、オーストラリアなどの地域でも同様の実験をし、同じ結果を得ているとのこと。これは恐るべき事実です。

論理的に考えれば、当然顔写真だけを見て「能力が高い」かどうか評価はできません。そのことをシステム2がきちんと理解しているにもかかわらず、相関関係が70%もあるという事は、何らかの過程でシステム1の直感的判断が強力に影響している可能性を示唆しています。

以上述べてきた通り、システム1の直感がこしらえたストーリーが首尾一貫していればいるほど、システム2が抗うのは容易ではありませんが、重要な意思決定をする際は、このことをきちんと考慮に入れる必要があります。例えば投資することが確定しそうな役員会議の場で、仮に「5年後に事業が失敗して撤退又は減損を余儀なくされる。その理由は何か」という頭の体操をしてみると、集団浅慮を回避できるかもしれません。

ちなみに著者のダニエル・カーネマンは行動経済学の功績で2002年にノーベル経済学賞を受賞しますが、本来は心理学者です。その後リチャード・セイラーも2017年に行動経済学でノーベル賞を受賞し、行動経済学だけで近年二回もノーベル賞が出るのはそれだけ重要領域になっているということです。伝統的経済学(いわゆるミクロ・マクロ)が限定合理性理論を無視し続けているのも、ある意味でこれまで膨大な時間を費やして発展させてきた合理的意思決定モデルを、破壊したくないという損失回避バイアスなんだと思います。

アンカリング効果とハロー効果を理解しよう

特にアンカリング効果はめちゃくちゃ強烈で、その道のプロフェッショナルの判断でさえ簡単に歪められるとのこと。これは危険ですね。ビジネスでも日常生活でも、きちんと意識して対策しないと重大な錯誤を生みます。

■アンカリング効果① いくら寄付しますか?1.あなたは〇〇での災害に1,000円以上寄付しますか?2.あなたは〇〇での災害に50,000円以上寄付しますか?⇒2の質問をした方が圧倒的に寄付金額の平均が上がる。

■アンカリング効果②

スーパーの特売 1.安売り商品おひとり様10個まで 2.安売り商品おひとり様制限なし⇒1の方が2より倍近い数購入される。

■アンカリング効果③

不動産の買値を決めてもらう1.売手の言い値が非常に高い2.売手の言い値が非常に安い⇒不動産の専門家にそれぞれ売手の言い値だけが違う資料を渡して買値を決めてもらうと、あら不思議。1.の方が圧倒的に高い。そして専門家は口々に売手が提示した価格など参考にしていないと言い張る。

■ハロー効果 政治家・芸能人が嫌い

本当はその人の政治思想や政策が気に入らないだけなのに、人物そのものや顔やしぐさまで全て嫌いになる現象。最近のジャニーズ外しも、全く別の領域で問題が生じているのに、イメージが毀損するとそれ以上に深刻な嫌悪に繋がる恐れがあるため企業がこぞって降板させている。

運と偶然性の軽視、相関関係と因果関係は違うのだ

自分が今まで読んだ本の中では結構大切にしていた『ビジョナリー・カンパニー』シリーズ(ジム・コリンズ)も超酷評されていて、目から鱗がボロボロ落ちました。これぞまさに相関関係と因果関係は違うのだ、という科学の根源に刺さる評論だと思います。

人間の脳は偶然性や運の重要性を軽視し過ぎる傾向にあり、どうしても成功した企業や人間の理由をつけたくなるが、実際はいずれのケースも偶然が重なって幸運だったこともまた事実なのです。

だからスタンフォードの博士課程にいた二人の技術者が高度な検索技術を駆使して会社を大きくしつつある中、百万ドルでバイアウトしようと検討した際に「高すぎる」と断られた偶然や、その他資金調達や競合との関係で様々な幸運がなければ今の巨人グーグルがないことは多くの人が無視するストーリーになってしまう。「ヒトラーは実は犬や小さな子どもたちが大好きだった」という事実は、冷徹無慈悲の人間像と首尾一貫しないから、簡単に無視され、一方で「ヒトラーは自らの側近にも冷酷無慈悲で片時も配慮することはなかった」という嘘のストーリー(本当は親衛隊にきめ細かく心を配り、誕生日祝いまでしていた)を信じたがるのです(ちなみにこの首尾一貫性を求めるシステム1の性質がハロー効果を生み出している)。

特に医師や経営者、政府や政治家など、誰かに変わって意思決定を行う人の判断については、その判断そのものの適切性よりも、様々なオペレーションや不測の事態の発生など偶然発生した結果が重視される傾向(判断が悪かったから結果も悪かったと思いたがる傾向)にあるのも、この首尾一貫バイアスのせいだと思われます。これは評価する側も注意する努力が必要だが、やはりどうしてその判断をしたかの説明や、なぜうまくいっていないか、あるいは不確実性についての事前の十分な説明などについて、やはりコミュニケーションが大切なのだと思います。自分もプロフェッショナルとして、冷静に課題に対処しつつ、その判断の過程やなぜそうしようとしているかなど、十分にわかりやすく説明することが大切だなあとつくづく感じました。

行動経済学は死んだのか

ここまでダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)を中心に行動経済学の示唆を紹介してきましたが、実は経済学を中心に極めて多岐にわたる社会科学の学者らから、痛烈な批判にさらされてきました。また、ウォルマートの行動科学のヘッドを務めているジェイソン・フレハ(Jason Hreha)という人物から、「行動経済学の死」と題された記事まで出されています。

批判の多くは、行動経済学の基礎となる様々な実験の重要な発見が、再現失敗となるケースが多い点や、そもそも実験自体の質問の建付けが誘導尋問のようなやり方に問題があるなど、たくさんの批判があります。重要な発見の多くが、限定的な環境下でそれが再現できるに過ぎないことが多いため、現実世界での応用はテクニックがいるし、ほぼ効果がないかもしれません。

ただし、こうした批判は正直社会科学のほぼ全ての分野にも当てはまる(何なら伝統的経済学の合理的意思決定モデルは完璧にフィクション)ものである事と、心理学の世界では、参照点(最初の心の中のポジションのようなもの)が重要で、そこからどれくらい乖離しているか・変化するかが重要な着眼点なので、同じ質問を別の人にしても全く異なる効果が出現する可能性が高い(つまり再現できない)のです。

なので、行動経済学の重要な発見が全く無価値というわけではなく、現実を見て活用できる部分は活用する、でよいのだと思います(記事の中でフレハはたった数%の効果しかないと批判していますが、十分有意な差だと思います)。まあ、ダニエル・カーネマンもユヴァル・ノア・ハラリも凄く刺激的で面白いけど、あまりにも他の領域を破壊しかねない、ともすれば遺伝子と神経が生み出すアルゴリズムがすべてを決定しているような錯覚に陥りがちになるので、異端視されているのにはやはり理由があるわけですね。

参考文献

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Corporate Finance Economy IMF WEO Market

これからの日本経済見通し(中短期)について;インフレと株高と

インフレ大爆発の予兆

ここ数日体調不良で家に籠っていたのですが、いろいろ考えて、日本でインフレが今後大爆発していく未来が見えました。某YouTubeチャンネルを拝聴して妙に納得しました。日銀の対応は遅きに失している可能性が高く、既にだいぶ前から手遅れだったかもしれません。あまりにも長期に渡って量的緩和をやりすぎて、もはや戻れない地点まで来てしまっている可能性があります。日本はデフレが長すぎてインフレの恐ろしさをみんな忘れ切っているけれど、、。

確かにコロナ禍やウクライナ侵略によるサプライチェーンの混乱(あと半導体の中国締め出しも)等からくるコストプッシュインフレと説明する人が多いです。しかし、これらもある程度落ち着いて平常を取り戻しつつある世界の中で、なぜ金利を上げまくっている米欧でインフレが大爆発を継続しているのか。全く止まりません。ディスインフレはまだまだ遠いでしょう。英欧はこのままスタグフレーションに突入する公算が大きいです。

今のインフレ率で米国が完全雇用に近づいている現状を見れば、安定2%という水準さえ見直されるかもしれません(もともと米国は雇用と物価と金利の密接な関係(フィリップス曲線)を利用して、低位安定した物価で最大の雇用を達成することを中銀政策の中枢に据えていて、2%は経験的に最も効率よく最大雇用を達成できるインフレ率だった)。
むしろ本当のインフレの原因は全世界の中央銀行と政府が実行した未曽有のスーパーばら撒きによる財政インフレなんでしょう。ということは、これが多少引き締め局面になったところで、既に撒かれたカネは家計に留まっていて、中銀のBSはまだまだ肥大したままで、市中のキャッシュは溢れたままです。インフレが全然収まらない米欧を観ればわかる通り、日本もこれから爆発して全然止まらない可能性が高いですね。人手不足が深刻で、賃上げして価格転嫁して、市中の資金が還流しはじめて、そこでコロナによる行動規制が緩和されて消費が大爆発する。既に日本の高級ホテルなんかも見たことない価格になっていますが、それでも客が入る。価格の上昇は継続していくのでしょう。

そしてインフレ(厳密には期待インフレの上昇)になれば、現金から逃避して現物(商品)や不動産や金融商品に流れ、株高になる。ちなみにこの動きが加速して過熱して収まらなくなると、それこそが正にバブルとなります。とどまることを知らない資産価格の上昇のスパイラルが、最終的に総量規制という劇薬で弾け飛んだのが正に日本のバブル崩壊でした。

コロナ禍はバブルだったのか?

コロナ禍では世界中のリスクフリーレート(RF)が極限まで下落したため、将来キャッシュフロー(将来CF;それが株ならば、将来の企業業績)は減少しているのにフェアバリュー(FV*)が増加する不思議な現象が発生していました(当時監査で相当専門家と議論しましたが、ERPは短期間に急激に変化しないという前提からRFが低下すれば割引率も低下する、ということらしい)。

*FVは、将来CFを割引率で現在価値に割戻した価値の合計で算定されます。超ラフに言えば割引率はRFとリスクプレミアム(主なリスクは、企業ならERPと呼ばれる)の足算。FVは将来CFと割引率の二つが決めていて、将来CFが増えればFV増、割引率が低下すればFV増。

つまり将来の不確実なCF(しかもコロナ禍に突入したばかりの頃は本当に全く見通しが立たなかった企業も多かったはず)の多寡よりも、いま目の前で確実に算定できる割引率の方が遥かに影響が大きかったということ。株価はそのため当然プラスで、誰かがバブルだとか騒いでいたけど、FVの上昇に伴うものなので、全くバブルではありませんでした。むしろいま日本でもRFが上昇する中で、株価が上昇するのは異常なのだけど、そもそもPBR・PERが異常に低かった日本の株価がFVじゃなかった説(これがジャパンディスカウントか)。冷静に考えて、PBR1倍割れ(解散して株主にお金返した方が株主に有利)が当たり前の日本企業とか意味不明だからね。また、インフレと円安継続で輸出産業にプラス・かつ大部分国内消費で食っている日本企業のCF(企業業績)が相当良くなるため、むしろ微々たるRFの上昇よりもCF改善が貢献するのでしょうか。それがバフェット氏が日本株に投資した真意なのかもしれません。そして現物、特にコモディティをふんだんに取り扱う商社株なんだと、そういうことでしょうか。

世界のインフレとの闘い

IMFも長期化するインフレとの闘いを世界の主要なリスクの一つに数えています。「世界経済のコロナ禍からの回復は鈍化し、セクター・地域によって回復ペースにばらつきが拡がっている」(The global recovery is slowing amid widening divergences among economic sectors and regions)様相を呈しています。

世界では、トルコは一昨年から超インフレ状態で、アルゼンチンでも超インフレ発生、集団強盗の多発など社会は混迷を極めています。中国も(おそらく)不動産がバブル崩壊し、異常な社会環境になっているはずですが、彼の国は正確な情報が出てこないので不透明です。一方、欧米もインフレが高進していますが、逆イールドが300日を超えて発生している米国も、おそらく今後極めて高い確率でリセッション(不況期)に突入し、既に述べた通り英欧もスタグフレーション(不況期かつインフレ)に突入していきます。

東証のマーケット再編~インフレと株高と

今後日本もおそらくインフレに苦しむが、ここからどのように不況に突入せず軟着陸できるか、中央銀行と政府の手腕が問われています。本日三連休初日ですが、いつも自分が車を止めている駐車場はほぼ全ての車が出払っています。正直こんなに車がないのを初めてみました。これが消費の爆発。コロナ禍で遊べなかった分の反動が強烈なパワーで押し寄せてきています。皆口ではガソリンの高騰で苦しんでいると言っておいて、実はそんなことなんかお構いなしに遊び回っています。

日本だけが、先進国で唯一ゼロ金利とイールドカーブ・コントロール(YCCは世界で唯一)を継続しています。これが未来永劫変わらないわけがない。植田総裁も前回の会見で、引き締め局面に移る可能性をじわり示唆しています。また、先般の東証のマーケット再編で、一部・二部・マザーズはプライム・スタンダード・グロースになりましたが、ただ名前を変えただけではありません。時価総額や流通株式数などの厳格な基準を設けて、それを3年以内に満たさない企業は、降格か最悪上場廃止になります。今まで株価を一ミリも気にしてこなかった日本のエリートサラリーマン社長たちが、上場維持のため、必死こいて株高政策を打ち始めます。余りまくっている資金を利用して自社株買いに邁進するか、配当増やすか、投資を増やします。しかも賃上げと価格転嫁が求められ、いままでずーーーぅっと、値上げせずに耐え、リスクを下請けに押し付け、賃金減らし、投資減らし、デフレマインド経営を続けてきた企業経営者が、完璧にインフレマインド経営をぜざるを得ない環境に追い込まれています。

問題はこの環境が持続するかどうかですね。とりあえずこのストーリーならインフレと株高が高進するしかない。やはりメインシナリオはこれですね。

【参考】

IMF『WEO Update JULY 2023』

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Corporate Finance Economy FX Investment

日銀の為替介入と金融政策;この先の日本経済の行方は

日銀の為替介入(2022/9/22)について

日銀砲がついに炸裂しましたが、影響軽微のためただ相場を荒らしただけという噂が、。完全に相場から足元見られています。
そもそも為替介入をする前に中央銀行としてやるべきことがあります。世界が金融引締めに進む中、日銀だけ金融緩和継続しているのが円安の原因なのは明らかなのだからその修正が必要です。
また、介入を流動性の高いロンドン時間にやったのも失敗だと思います。本気で円安沈静化させたいなら流動性の低い時に一気に間髪入れずに投機筋を焼き切るようにやるのが普通だと思うんですが、協調介入でも狙ってたんでしょうか?しかし政策修正しない限り、ECB・FRBは理解してくれないし、まして協調介入なんて望めないでしょう。

しかしこんなに大騒ぎして、週明けすぐに「介入したんだけど、ドル円直ぐ戻っちゃいました」となったらあまりにも恥ずかしいです。本気度が試される一回目の介入でしたが、。このまま終わったら残念です。ただ荒らしただけの介入。

値動きとしては夕方の介入からすぐに半値戻し、その後恐らく夜21時すぎまで介入は続いていたものと思われます。145.90円から140.36円に断続的に急落しましたが、その後反発し現在は142~3円前後をうろうろし、既に焼け石に水感が出ています。ECB・FRBとも協調介入ではないとの声明あり、日銀の単独介入であることがわかりました。すると原資は外貨準備高が上限で、前回介入の規模から推測すると、外貨準備の1割くらい使ってる可能性があります(規模は前回からのただの類推で根拠なし)。

たったコレだけで一割近くも使ったのか!と財務省と日銀の緊張感は計り知れないでしょう。

隘路に立たされる政府・日銀の金融政策について

日銀介入から丸一日以上経過した本日週末は、高値から半値以上戻し、完璧に日々の変動の中に収まっています(下図参照)。まるで意味なし。ボラの高い最近の市場ではこの程度普通に毎日動いています。もはやギャグでやってるんですかね、、?世界中から無意味な介入を痛烈批判されています。財務官の発表では「為替介入の判断の決め手は、円相場の水準そのものではなく値動きの荒さ」といっていますが、自分たちが一番値動きを荒らしています。金融政策を修正しない限りいまの潮流は変わらないし、この先円安はもっと進行します。

むしろトレンドに逆らって、先にやるべきこと(金融政策の修正)を実行せず、上限のある円買いドル売り介入に踏み切った市場への影響は、サマーズ氏のいうように、相場を荒らして短期筋のチャンス作ってるだけの愚行です。

たしかに現状選択肢がほぼなく、政策的な隘路に立たされているのはわかります。政府も政治家も国民も変化による痛みを恐れすぎていて、何もできない袋小路に入り込んでいます。

むしろその意味では、ゾンビ企業を増大し続けてきた日本の長年に渡る大規模金融緩和と、さらにコロナ禍によるその拡大が今の環境を作ってきたわけで、黒田氏の来春退任が迫る今こそ後任人事を本気だして政策を修正するタイミングだと思います。先日TICAD8でも露呈した通り、アフリカでの日本企業の存在感はあまりにも小さく、このままだと日本はアフリカの成長を確実に取りこぼします。グリーンもデジタルも先進主要各国で一番遅れているグループにいます。いい加減に政府も国民も本当の問題に向き合うべきです。こんな環境でイノベーションも経済成長も起こりそうにありません。

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Media Philosophy Politics

何が民主主義を狂わせているのか;真犯人はマスメディアとフィルターバブルなのか

前回(2020年)の米国大統領選挙は、日本でも非常に注目を集め、主要マスメディア(本記事では、新聞・テレビ・雑誌等の紙及び電波を通じたマスメディアの事を指し、以降SNSやインターネットメディアと対比するため「旧マスメディア」と呼称します)だけでなく、SNSやインターネットを通じて、選挙に関連する夥しい量の情報が流されていました。その中には、真偽の怪しいデマ情報も多分に含まれ(SNS等で拡散されている一部の情報が不正確あるいはフェイクであることは論を待たないが、旧マスメディアが提供する情報が不正確で全く中立的でないことも後述します)、これらが世界の様々な人々の熱気と共に世界中に拡散されていき、大統領選は混沌の中に落ちていった、というのが第一印象でした。

ある人は「選挙で不正が行われ、選挙は盗まれたのだ」と信じて疑わず、ある人は「不正なんか絶対に行われていない」と主張して平行線をたどり、お互いに分かり合うことは決してありませんでした。トランプ氏に投じられた7,100万票とバイデン氏の7,500万票は、こうした選挙にまつわる疑惑によって、単なる政治的立場の違いを超えたレベルの社会の分断を産んでしまったのではないかと思料いたします。また、1年前に武漢研究所から漏洩した生物兵器であると主張する人々を、「陰謀論」だと一蹴していた大手マスメディアらは、WHOによる茶番調査が終わった後、今年(2021年)の5月になってから突然、「研究所漏洩説に信憑性が増してきた」と報道し、彼らがこぞって方向転換した理由は一体何なのでしょうか。

本記事では、メディアの価値や信頼性、民主主義の在り方等についての内容をお届けしたいと思っております。はじめに申し添えておきますが、私はどちらかというと中道右派、思想はリベラリズム(日本語のいわゆる「リベラル」とは全く違いますので誤解なきよう)に近いと思われます。

「全く別の真実」がそれぞれ「事実」として認識されている気持ち悪さについて

一つだけ確実にわかることは、事実は一つしかないはずなのに、「全く別の真実」を人々は事実として信じているという事です。そしてこれが新たな政争の火種となり、誤った情報や虚偽ないし脱漏のある情報を、人々が不用意に(あるいは悪意を持って)拡散することで夥しい量に再生産され、さらにこれらが無意味な衝突を産んできたのではないかと推測しています。

トランプ・バイデン両氏にはお互い歴史上最大に近い膨大な数の票が投じられ、有効投票の約半数に及ぶ人々がそれぞれの対立候補に投じました。これによって分断が深まるアメリカ、という話をしたいのではありません。むしろ投票率は歴史的な高さを記録し、投票による対立があることは民主主義のあるべき姿であると思っています。そうではなく、それぞれが「全く別の真実」を「事実」だと信じ、それらの事実関係が全く不明瞭のまま大統領選挙が終わってしまった事が、最も大きな問題だと思っています。なお、裁判は真実を明らかにするものではなく、法律関係を整理するだけのプロセスであり、選挙不正もトランプ氏の弾劾無罪についても、いずれも事実は何一つ明らかになっていないと思っています。

いったい何がそうさせたのでしょうか。私はここに非常に強い関心を持つとともに、何よりも民主主義の崩壊の足音が聞こえた気がして、この恐怖と絶望感から筆を執るに至りました。そして米国で起きているこの「分断」は決して他人事ではなく、我が国においても、原発や憲法9条をはじめ国論を二分するような議論でも、同様の事象が起きているのではないかと思えてなりません。

オールドメディアの斜陽、信頼度と政治的中立性について

信頼度は日本だけ突出して高い

日本では、10代の約半数がテレビを視聴していないと言われています。私も30代ですが、もうかれこれ15年くらいテレビのない生活をしています。テレビや新聞をはじめとする、旧マスメディアにかつてのような勢いはなく、インターネットやSNSにとって替わられつつあります。もはや、人々は娯楽としても情報を収集する媒体としても、テレビや新聞をあまり利用しなくなってきています。知りたい事や観たいコンテンツもYouTubeやAmazon Primeで見放題の時代です。また、世界のトップニュースを知るには、インターネットやSNSで十分だからです。

しかし、旧マスメディアは依然として多くの人々の主要な情報ソースを占め、実は我が国では他の先進国に比べて非常に強く信頼されています(詳しくは、President Online 『「日本だけ異様に高い信頼度」マスコミを盲信する人ほど幸福度は低い』の記事を参照、Reuters Institute for the study of jounalismの『Reuters Institute Digital News Report 2021』でも同様の傾向が報告されている)。他の多くの先進国では新聞やテレビはあまり信頼されていないのに、日本では他の欧米先進諸国に比べて盲目的に正しいものだと信じられている傾向にあるそうです(下図参照)。

そういえばとある老人に、「お前は新聞を読まないのか、この記事で学者がこういってるから科学的に正しいのである」と説教されたことがあります(たしか原発の話)。もしも新聞が中立的で科学的で正確だとでも思っているのなら、それは相当現実認識が甘いと思います。デスクや上長のレビューくらいはされてるでしょうが、毎日膨大な量の記事を出してる全てが正確なわけがありません。そしてほとんどの場合、科学的でもないです。例えば私の専門とする決算や会計の記事なんかは大体変に間違ってるか論点がズレてます。そして忘れてはいけないことは、彼らには右か左の明確なポジション(たいていのメディアは左寄り)があり、中立ではないという事です。ちなみに冒頭で記載した研究所漏洩説に関するワシントンポストの記事では、同社の有名なファクトチェッカーが一年前の自分のポジションを180度ひっくり返したため、いろんな人から批判されてるそうです。

はっきりいってこれは当然の帰結です。非常に単純なことですが、問題はメディアが誤報であっても何らの責任も負っていない事、及び彼らのほとんどが営利組織であり、(あるいは仮に公営だとしても)誰かの利害関係の中で記事を作成している事にあるのだと思います。

少し話が逸れますが、以前の拙作動画/ブログでも少し触れましたが、「望ましい社会」の探求の中でロールズは、「無知のヴェール」や「原初状態」という理論装置を用いて、社会の「正義」から個人的利害関係を引き離す方法を考えていました。もちろんそれはフィクションでしかないのですが、私はこの「誰かの利害関係のために活動する個人」を「公共の利益のための選択」から切り離していく科学が、次世代の脱新自由主義のイデオロギーになっていくのではないかと勝手に雑感をもっています。

各メディアの政治的立場と信頼度に関する問題

さて、もう少し詳しくメディアの話をしていきます。各メディアには右か左のポジションがあると記載しました。Reuters Institute for the study of jounalismの『Digital News Report 2019』によれば、英米の主要メディアは以下の通りに分類されるそうです。

日本のメディアについては、残念ながら権威のある論文は無料では簡単に探せなかったのですが、よく言われるように朝日・毎日は左で、産経は右寄りという事は比較的正しいのではないかと思われます。さて、こうしてそれぞれの政治的立場がある上に、さらにポピュリズム的な報道の傾向(日本では文春砲がポピュリズムの代名詞と思われる)もあり、メディアの報道の価値については、一定の距離感を持って評価すべきものと考えられます。

彼らがどういった政治的立位置で、どのような取材や調査を通じて当該報道を作り上げたのかについて、多くの場合明らかにされていません。そうした不透明なプロセスを通じて形成された報道を妄信的に信じる事の危険性を認識した上で、それらとの正しい距離感と付き合い方を、私たちは改めて考え直さなければならないのだと思います。

上図は報道に関する信頼について、ジャーナリスト側(図の左側)が思っている事と消費者側(図の右側)が思っている事を対比したものです(Reuters Institute; 『Listening to what trust in news means to users: qualitative evidence from four countries』より)。米国、英国、インド、ブラジルの4か国における報道の信頼性に関する論文です。

例えば、最も多くの一般の人々が思うメディアに対する信頼度は「Brand history and heritage」や「Familiarity and reputation」であり、当該報道を行っているメディアのブランドや評判を知っているかどうかに左右されます。一方で、ジャーナリスト側(図の左側)は、「Transparency about how news is made」、つまり当該報道の作成過程の透明性が重要であると考えており、一般の人々の考えていることから乖離があります。これはある意味で当然のことで、一般の消費者とジャーナリズムのプロフェッショナルとの間の重要な差異です(ちなみにほとんど同じ構図が会計監査の世界でも言え、一般の人々が監査に期待することと、私たちが監査で実際に果たしている役割のギャップがあり、このことを監査論の世界では「期待ギャップ」と呼称したりします。)。

結果的に多くの人々は、当該報道が「どのように」作成されたかよりも、「誰が」報道しているかの方を重視していることが、わかります。本来的には当該報道がどのように作成されたかの方が信頼性に大きく関連するはずであるにもかかわらず、実際はその報道機関の「ブランド」や「評判」によって信頼性を得ているのです。

何を信じるべきなのか

ではいったい何を信じるべきなのでしょうか。それは私やあなただけでなく、全ての人が考えるべきことです。私の問題意識は、日本人が旧マスメディアをあまりにも妄信的に信じている事にあり、まずは彼らの報道には偏りがあり不正確で非科学的な可能性がある事を、認識しなければいけないと思っています。

旧マスメディアがかつての勢いを失ったとはいっても、いまだに私たちが入手するほとんどの情報ソースを占めており、さらに彼らの報道の元となる取材を実際に行っているのは、ほとんどの場合、通信社(共同通信やロイター通信など)です。インターネット報道のブランドでも、旧マスメディアを母体とするものは多数あります。

特定のメディアや人の情報発信を妄信的に信じるのではなく、出来るだけ多方面の複数の情報源を持ち、それらから得られる情報を総合的に勘案して、正しいと思われることを選択していくことが重要です。その際、一度正しいと思ったものでも、反証する情報や信頼性の根拠が崩れるような事象が識別される可能性を十分に意識した上で、そのような場合には、柔軟に考えを訂正する必要があるのだと思います。

フィルターバブルとエコーチェンバー

何かを知りたいとき、多くの場合、インターネットで検索をすると思います。その時使用している検索エンジンは、ほとんどの場合、Google製です。また、コロナ禍の折、なかなか外に出ることもできず、何かを買い物したいと思ったとき、Amazonや楽天でほしいモノを検索するでしょう。現在の日本では、個人情報は抜かれ放題で、私たちの生年月日、電話番号、クレジットカード番号、暗証番号、家族構成、年収、住所、勤務先、趣味、普段何を検索し、どこからどこに移動し、何に興味を持っているのか、ほとんどすべての情報を彼らは把握しています。

そして、常にAIとアルゴが私たちを監視し、私たちにとって「最適な検索結果」や「最適なオススメ商品」を提供してくれます。だから別の人間が同じ単語を検索した場合、それぞれ異なる検索結果やオススメが表示されています。私たちは無意識のうちに誰か(GoogleやAmazonのAIやオペレーター)が選択した、限られた情報だけを入手し、「好みの商品」だけ購入するように仕向けられているのです。彼らは私たちの入手する情報を限定し、気が付けば自分の知りたい情報しか見えなくしてしまうのです。このことをフィルターバブルと呼称します。

さらに、大統領選で大きな活躍をしていたのが、TwitterをはじめとするSNSでのトランプ氏自らの発信でした。しかし、議会乱入事件(弾劾裁判ではトランプ氏無罪が確定済)を受け、Twitter社及びFacebook社はいずれもトランプ氏のアカウント停止処分をしており、これは多くの著名な政治家らも発言している通り、言論の自由に関する深刻な危機だと思います。

SNSでは多くの場合、興味のあるユーザーをフォローし、お互いに似た関心事や意見を持っている人々の集合が形成されます。だから、何か情報発信をしたり情報収集をすると、自分と類似する意見の人々から反響が返ってくる傾向が強いです。そのため、自分の特定のアイディアや意見は補強され、正しいのだと思い込み、増長していきます。このことを、一般にエコーチェンバーと呼称します。

インターネットが日常生活に深く浸透した現代では、私たちの受け取る情報はこうしてGoogleや巨大SNSによって支配され、私たちを知りたい情報領域の小さな泡に包み込み、閉ざされた小部屋でその意見を反響増幅させています。世界を一つにしたかに思われたインターネットが、逆に世界を小さな部屋に細分して、私たちを小さなコミュニティに押し込めているのです。

だからこそ、今多くの人に問いたい事は、「How do I know I’m right?」(どうして自分が正しいと思うのか)という世界最大のヘッジファンドの創設者であり伝説の投資家であるレイ・ダリオ氏のTED講演での問いです。これはトランプ氏やバイデン氏が、あるいは原発が人類にとって良いとか悪いとかいう次元の問題ではないんです。一番大きな問題は、誰もが自分が観たい事・知りたい事だけをつまみ上げているだけなのに、それが世界の「真実」だと思い込み、それぞれ「全く別の真実」を通じて世界を認識している事なんです。

そんな事では永久に分かり合えない、民主主義的な議論ができない。この気持ち悪さが、今回の大統領選の正体だったのではないかと思っています。

新たな時代の戦争のカタチ

世界では既に第3次世界大戦が起こっているという人がいます。その中には、香港やミャンマー、チベットやウイグルの人権問題だけでなく、台湾海峡で今後起こりうる軍事衝突に対する中国 VS アングロサクソン諸国(Five Eyesと呼ばれる)の反発や日本の反応を気にしている人もいます。COVID-19パンデミックの責任論だけでなく、各国の宇宙軍の創設や、サイバー空間をはじめとした新しい領域での鬩ぎあいが続いています。

私たちが生きている世界では、物理的な暴力装置の他に、サイバー空間における情報の支配によって、恐ろしい攻撃・攪乱を行うことができることが分かっています。

我が国は、スパイ防止法や防諜法はなく、好きなだけ諜報活動、情報操作や破壊活動ができる「スパイ天国」だと言われています。メディアにおける報道も、資料作成や情報分析を民間委託しQualification Clearanceのない我が国政府においても、様々なレイヤー(諜報機関による活動、政府レベル、民間レイヤー、ロビーイング活動を含む)で、多様な形(数値・印象の操作、民意の誘導、誤情報の拡散、ネットでの袋叩き等々)で、実はこうした諜報活動や破壊活動に侵されている恐れがあります。そしてこうした活動が現代の高度なデジタル社会によって、より簡単に強い影響力を及ぼすことができることは容易に想像がつきます。

キッシンジャーは、サイバー攻撃の脅威について、「サイバー攻撃の容疑者はまことしやかに関与を否定でき、それをおしとどめる国際合意もないので、危険はさらに増大する。たとえ犯人を突き止めても、法執行のシステムがない。ノートパソコンが一台あれば、世界中に影響を広められる。コンピュータを使う能力が高い当事者ひとりが、サイバー領域に侵入し、ほとんど身元がばれないままで重要なインフラを機能不全にしたり、ことによると破壊したりできる。国の物理的な領土からまったく離れたところで行われた行為で、送電網の電流を急変させ、発電所を故障させることができる。政府のネットワークに侵入して、外交活動に影響を及ぼすような規模で機密情報をばらまけることを、すでに地下ハッカー・シンジケートが実証している」と指摘しています(ヘンリー・キッシンジャー『国際秩序(伏見威蕃訳)』(電子書籍版 2016)。

また、同キッシンジャーによれば、現代の世界は、大戦期の遺産として核兵器を受け継いだが、その重要な意味合いは戦時と平時で明確に異なる時期に区分して分析することができます。サイバー時代の前、国の戦闘能力は、兵の数、士気、装備、地形、経済等によって測定され、平時と戦時が明確に区別されていました。一方で、サイバースペースはどこにでも存在し、それ自体は脅威ではないが、危険であるかどうかは使い方次第であり、そのためにサイバースペースはこうした平時と戦時の区分を曖昧にし、まだ共通の解釈も了解も持たない当事者が「戦闘能力」を備えてしまっていると指摘されています。

真犯人はいったい誰なのか?民主主義に問う

最も大切な事は、私たちがテレビや新聞やSNSで目の当たりにしている「真実」は必ずしも事実ではない、という事を深く理解することです。何が正しい事で、何が中立的な判断であるのか、それらについて隣人とざっくばらんに恐れずに議論すること、特定の見解やポジションに囚われず、深いレベルに達する状況理解が求められています。

検索すれば大抵のことはわかる大変便利な時代になりました。それと引き換えに、正しい情報を得て事実を知るために膨大な努力が必要になりました。ほとんどの場合、世界に流通する誤情報に対して誰も何らの責任も負いません。しかしもしも、誤った情報に基づいて、誤った判断・行動をしてしまうのであれば、その責任は私たち自身にあり、その判断や行動の帰結についても、私たち自身が負わなければなりません

もともと民主主義は、不完全な仕組みです。また、何かを変える時には、大変な議論と説得に厖大なエネルギーを必要とし、非常にコストがかかる仕組みでもあります。ですが、主権の主役である私たち国民がこれらの議論を辞め、事実を探求する思考を放棄するのであれば、民主主義はたちまち「衆愚政治」に陥ってしまいます。そのとき民主主義を狂わせている真犯人は、言わずもがな当然に民主主義の主人公たる私たち国民自身なんです。

特に今般のコロナ禍によって、社会が危機に瀕しているからこそ、いま改めて政治・行政の大切さを問い直す時なのだと思います。コロナが浮き彫りにした社会的セーフティネットの脆弱性、デジタル化の著しい遅れと省庁間・国地方間の情報共有・連携の不備、とにかく緊急事態宣言を乱発する時の政権、政策遂行の邪魔をして全力で足を引っ張る野党、五輪絶対開かせたくないマンの某報道機関がいざ開幕したらどの面下げて五輪報道、いったい誰が本当に国民や民意の事を思って行動してくれているのでしょうか。こうした諸問題に対して真摯に向き合い、本気で変えようと思い、そして変える実行力がある人がいま求められているのではないでしょうか。

また、「自分がくそみたいな人生なのに、勝ち組の女性を殺したい」と小田急線で起こった通り魔事件、旭川で起きた壮絶ないじめによる凍死事件、京都のアニメーション会社での放火殺人事件、とまらない凄惨な事件の数々、この社会は誰がどうみたっておかしい。

我が国を含む先進諸国においては、1970年台以降「新自由主義」に基づく諸政策により、長期にわたる経済成長を実現し、高度消費社会を築き上げてきました。一方で、地球環境破壊と極端な格差の拡大という影の部分を大きく伸ばしてきたことを忘れてはなりません。現代社会は努力や勉強の成果が正当に報われる社会というよりは、もはや金持ちの子は金持ちに、貧乏人の子は貧乏人になる世代間所得階層移転がガチガチに硬直化した社会になってしまいました。昔からその傾向はありましたが、現代では公教育の破壊によって低所得層の教育アスピレーションが壊れてしまいました。これは夥しい研究成果によって裏付けられています(相澤 真一(2011)「教育アスピレーションからみる現代日本の教育の格差 趨勢変化と国際比較を通じて」石田浩・近藤博之・中尾啓子編.『現代の階層社会[2] 階層と移動の構造』東京大学出版会など)。

これは私の仮説ですが、その中で虐げられ尊厳を踏みにじられてきた人々が、幾世代にも渡って負の連鎖を繰り返し、そのやり場のない怒りや苦しみが、社会(無差別殺人)や他者(拡大自殺)、あるいは自分自身(自殺)や家族(DVや虐待)への攻撃として一部が表れてきているのだと思います(もちろんこれだけでこれらの社会問題は全て説明できません)。自分の友人や大切な人や家族が、こうした事件に巻き込まれない保証は、あるいは子供達を被害者や加害者にもせずにやり過ごせる保証は、もうどこにもありません。この病巣は根深く広い。

私たちがこの社会の病に気づいて、行動を起こさなければ私たちの社会の明日はない、その崖っぷちまで来ています。誰もが明日への希望を持って輝いて自分らしく生きられる社会、ロールズ的に言えば、自分自身が社会において価値ある存在であると思える自意識が持てる社会にしなければいけません。およそ7万年にわたって育んできた私たち人類の心の力は、この危機と変化を必ず乗り越えることができます。社会を必ず変えることができます。

大きな社会の変化のうねりの中で、新たな時代の価値観を再定義し、望ましい社会の在り方について改めて問うことが、現代を生きる私たちには求められています。望ましい社会の理想を探求し、現実を理想に寄せていく努力、あるいは理想を修正し、現実的でBetterな選択肢を選び取っていく、そうした一つ一つの努力の積み重ねが、民主主義国家を強くします。

必ず投票に行ってください。でも投げやりに投票しないでください。誰かに言われて投票を決めないでください。怒りや負の感情に任せて投票を決めないでください。自分や特定の人の利益のためだけに投票しないでください。あなたの知っている人と恐れずに議論し、可能な限り正しいと思われる情報を多方面から収集し、最大限考えた上で、自分なりの我が国の望ましい姿を思い描きながら、そして投票に行こう。

参考文献・リンク

・President Online 『「日本だけ異様に高い信頼度」マスコミを盲信する人ほど幸福度は低い

・Reuters Institute for the study of jounalismの『Reuters Institute Digital News Report 2021

・Reuters Institute; 『Listening to what trust in news means to users: qualitative evidence from four countries

・ヘンリー・キッシンジャー『国際秩序(伏見威蕃訳)』(電子書籍版 2016

・相澤 真一(2011)「教育アスピレーションからみる現代日本の教育の格差 趨勢変化と国際比較を通じて」石田浩・近藤博之・中尾啓子編.『現代の階層社会[2] 階層と移動の構造』東京大学出版会

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Education FX Investment Market

これから投資を始める人たちへ~横行する無登録営業、違法な金融商品の投資助言等に要注意~

最近、すごく多いような気がするのは自分だけでしょうか?投資系YouTuberとかをフォローしていると、「絶対儲かる」とか「リスクゼロで毎日〇〇万円」みたいな、怪しい広告やオススメ動画が表示されるようになりました。

「絶対儲かる」や「リスクゼロ」は必ず詐欺ですので、注意してください。「レターパックで金を送れは全て詐欺」くらいのレベルで必ず詐欺です!!

内閣総理大臣の登録が必要

金融商品の投資助業等は金融商品取引法によって、内閣総理大臣への届け出と登録が必要です(金商法29条)。ただし、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもので、不特定多数の者により随時に購入可能なものを除くので、YouTubeやブログで投資判断等を公開しているだけならセーフな可能性が高いです。

一方、無登録で特定の人向けに個別のセミナーや勉強会をやり始めたり、システムトレード等を売買してたら金商法違反の恐れがあります。怪しいのをみかけたら、まずは内閣総理大臣(実際は内閣府金融庁>〇〇財務局による登録)の登録番号を確認するようにしてください。関東圏であれば、例えば「投資助言・代理業 関東財務局長(金商)第〇〇号」みたいな表示があるはずです。

無登録営業は違法行為

無登録営業を行った場合、五年以下の懲役もしくは五百万円以下の罰金、又はその両方が科されます金商法第197条の2)。また、無登録で金融商品取引業を行うものとして、金融庁のホームページで公開され、金融機関等の反社会的勢力のリストや信用情報機関のリストに「反社会的勢力」として登録されます。無登録営業で公表された場合には、法人の口座を強制閉鎖されたり、代表者の金融機関の個人口座も開設できなくなったり、住宅ローンを借りることもできなくなり、賃貸住宅すら審査で拒否される可能性もあります。社会的に経済活動から事実上排除されることになります。悪質な業者は金融庁へ通報しましょう。

無登録の投資助言は犯罪行為であり、安易な他人への投資助言は自分の社会的な死を招く恐れがありますので、皆さんにおかれましてもくれぐれもご留意くださいませ。

自分で自分を守るために

私自身も勉強と情報収集がてら、いろいろな方々のブログやYouTubeを拝見しているのですが、たしかに参考になる有益なものも多数あります。ただし、その中には人を惹きつける力がある巧みな話術で、パワーワードを多用し明らかに合理性の怪しい分析を「必ず勝てる」などと断言し、そして最終的には勉強会などへ勧誘をしてくるものもあります。

私自身も、騙されないまでも、そうした分析に何か意味があるものかと、かなり真剣に時間を使って検討したこともあります。結局根拠は不明であり、参考程度にはするが実際の自分のトレードにはほとんど採用しませんでした。私はファンダメンタルズ重視のスイングトレードが中心なので、もともとあまりテクニカル分析を採用しないというのもありますが。

なお、必ずしも違法行為ではなくても、いろいろな情報発信者の相場予想は人によって大きく異なります。全く同じ事象でも、例えば金の「上昇要因」だという人もいれば、「下落要因」だと分析する人もいます。結局のところ、彼ら彼女らが言っていることや分析が間違っているとか正しいということではなく、一番問題なのは「他人の助言に依存」する事だと思います。

前回のブログでも書きましたが、やはり大切な事は、自分の取引スタイルを確立することであり、「他人と同じことをしない」ことです。他人に依存せず、自分自身の頭で考え判断する事、それが最終的に自分を守る要諦なんだと思います。皆さんも安全な投資ライフをお送りください。

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FX Investment Market

FX初心者が1年間相場で生き残ったはなし;1年で証拠金約3倍

最近コロナ禍の影響もあり、すごく増えている資産運用のはなし、皆さんは何をしていますか?私は最近まで監査法人で働いていたためインサイダー規制の関係上、株式投資が自由にできなかったため、FXをメインにやってみました(その他、コモディティ・貴金属等も少々)。今回はFX完全初心者から初めて約1年間運用した損益をまとめてみようと思います。

決して怪しい勧誘やポジション・トークではありませんので、敢えて使用しているツールの紹介や証券会社の紹介等は一切しませんので、あらかじめご容赦ください。誰からもお金はもらっていません。また、当然に金融庁の許可もありませんし、いまだ自分自身ド素人ですので投資アドバイスなんぞ全くできませんので、それもご了承ください。何より大切な事は、投資は自己責任ということです。

この記事を書こうと思ったきっかけは、FXをはじめ投資関係のブログや動画では中立的な記事がほとんどないという悲しい現実です。そして何とか中立的なポジション・トークでない、生の初心者の声を聴きたいと思い、「FX初心者」というキーワードで検索したときの絶望感でした。FX関係の記事のライターや動画配信者の多くは、証券会社などからお金をもらってコンテンツを制作している人たちなんです。当サイトを立ち上げた想いである、世界の情報のフィルタリングや歪曲に負けず、まともな情報を発信する目標とも通底しています。

全般的には非常に好調な運用成績で、満足のいく結果でした。いろいろと失敗もあり学ぶことも多かったので、その中で試行錯誤しながら構築した私の取引アプローチを概説していきます。皆さんも最近始められたりして、いろいろと迷っている事や不安な事もあるかもしれませんが、何かの参考になればと思います。

運用成績

まずは実績が大事ですので、私の運用成績を以下グラフにしてみました。運用成績は約1年3か月ほどでほぼ+200%(残高3倍増)を達成しています。

2020年3月から口座開設して、直近2021年5月24日現在までの取引残高の推移(全部で2,665件の取引)をグラフにしました。証拠金の入出金が結構あるのでわかりにくいですが、追証をくらって追加入金しなければいけなかったのは、382取引目のみで、他は全て実際の資金需要による自分の他の口座との資金移動です。

口座残高(緑色の線)から証拠金金額(青色の線:入金した元手合計)を差し引いた額が純粋に取引による損益(及びスワップポイント)ですが、見ていただければわかる通り、目立ったドローダウンがあったのは1,900あたりから2,200取引目あたり(2021年4月頃)のみで、それ以外は基本的に増加傾向にありました。

口座残高の推移
取引損益の月次推移

取引結果の分析

ここでは、自分の取引結果を振り返って分析していきたいと思います。一人の初心者トレーダーが、FXのいろはを学んでいった道筋ですので、これから始めようと思われている方は、是非参考にしてください。私の中でこの約1年間は大きく分けて四つの時期に区切ることができると思います。

  1. レバレッジの恐ろしさと追証の悲しみを学んだ黎明期
  2. 新興国通貨で一攫千金を狙う
  3. 損切りを練習するも無残に失敗
  4. 安定こつこつ取引に(結局これが最強)

1.レバレッジの恐ろしさと追証の悲しみを学んだ黎明期

■自分なりのスタイルの確立

FXを始めた当初は本当に右も左もわからない超初心者で、何を知らないといけないのかもわからないなりに、いろいろと勉強しました。為替の理論的な本を読んだり、YouTube配信者の分析を観たり、様々な証券会社等の記事やメルマガを読んだり、分析ツールを使ってみたり、とにかくいろいろ触れてFXという世界を身近にしました。また、私は走りながら勉強するタイプなので、実際に勉強を始める直前くらいにFX口座を開設し、初めの証拠金を投入し、オーダーを出してみました。

とある専業トレーダーが言っていましたが、初心者が取引を学ぶのに良いアプローチとして、初めのうちは①通貨ペアを限定、かつ②ロングショートのいずれか一方向に限定する、等で膨大にある選択肢を限定することができ、取引の感覚やイメージをつかみ自分のスタイルを確立していくのに最適とのことでした。実はこの「自分のスタイルを確立すること」が、最初の重要な目標の一つです。よくプロトレーダーの世界では「他人と同じことをするな」と口酸っぱく言われるそうですが、人それぞれ思考のクセがあること、得手不得手の領域がそれぞれ異なるため、ロングが得意な人もいれば、ショーターもいて、スキャルピングがうまい人もいます。いまや世界にはインターネットを通じて膨大な量の情報があふれかえっていて、その一つとってみても、人によって相場への影響の分析結果が異なってきます。人によってトレーディングの時間軸が異なるため、数週間~数か月の長期スパンで考えている人と、数時間~数日で利益をだそうと考えている人では見えてくる景色は全く異なることは容易に想像つくと思います。

なお、自分はたまたまNZに駐在していたこともあり、コロナショック後はNZDが必ず上昇するという強いビジョンがあったため、自然とNZD/JPYのロングに限定されていました。実際にこれのおかげで、FX取引のいろはを学んだと思いますし、いままでの累積でも一番収益を上げたペアはいまだにNZD/JPYです。ちなみに私はポジポジ病には全くなりませんでした。

■取引ルールを学ぶ

また、初めのうちは証拠金のシステムやオーダーシステムなどもちゃんと理解できていなかった(理論的にはわかっていたんですが、身に染みてわかっていなかった)ため、結構恐ろしい思いもしました。そんなことをしている中で、素人が良くやりがちな、恐怖の『追証』をくらってしまいます。

私も出来ていなかった自戒を込めて、本当は超絶当たり前な事なんですが、まず初めに学習するべきは、取引ルールそのものです。特に現代の先進国通貨ではレバレッジをかけないと基本的にお話にならないため、やはりレバレッジをかけるのですが、正しいレバレッジの使い方を学ばないといけません。これは単純な算数の世界なんですが、ヒートアップすると簡単に忘れます。とにかく肝に銘じて徹底すべきことは、証拠金いっぱいにレバレッジをかけて行う取引は何があっても絶対にやらないことです。それはもう投資ではなくただのギャンブルだからです。これを守らないと、いつか必ず追証をくらい、最悪の場合強制退場となり、大変痛い目を見ることになります。そしてその結果、おそらくもう二度とFXをやらなくなってしまうと思います。取引所の取引ルールではなく、自分ルールとして徹底すべきであること、収益を上げる事よりも、市場に生き残ることが何よりも優先すべき重要な目標なのです。

以上をまとめると

  • 自分なりの取引スタイルの確立
  • 取引ルールを身をもって学ぶ
  • 証拠金いっぱいのレバレッジ取引は何があっても絶対にやらない
  • 相場に生き残ることが最優先課題

2.新興国通貨で一攫千金を狙う

FXに慣れてくると、先進国通貨のクロス円ドルストレートから、新興国通貨や特殊な通貨ペアなどに目が行くようになります。私も新興国通貨三兄弟の南アランド、トルコリラ、メキシコペソに手を出しました。

これはたまたまですが、自分が観ていたとある動画配信者の方のチャンネルで新興国通貨の買い時が説かれていて、このおかげで最高の成績を上げました。グラフの1,400から1,600取引目付近で急激に残高が伸びているのは、この新興国通貨による取引益のおかげです。

一攫千金といっても当然1.で学んだ通り、証拠金いっぱいに買ったりはもう絶対にしません。それでも新興国通貨はボラティリティが高いため、大きな損益が発生します。直近ではトルコリラが中銀総裁の突然の更迭などにより、大幅な下落(この時はノーポジで命拾いしました)があり、その後も下値をじりじり押し下げてコロナショック時の水準まで迫ろうかとしていますが、やはりそういうショック相場が起こりやすいのが、新興国通貨ですね。

なお、記事を書いている現在ではペソとランドの方は高値圏で推移していて、なかなか買うチャンスがない状況です。ちなみに自分ルールですが、新興国通貨はスワップポイントがエグいので、基本的にショートしません新興国通貨は買うチャンス(安値)までじっくり待って、しっかり買うのをオススメします。

以上、新興国通貨のポイントをまとめると

  • 証拠金いっぱいの取引は絶対にしない
  • 基本的にロングのみでショートはしない
  • 買うチャンスをじっくり待つ

3.損切りを練習するも無残に失敗

私はこの1年間、「損切り」を一切しない取引スタイルでしたが、それはとてつもなく運が良かっただけだと思いました。さすがに残高も増えてきたので、そろそろリスク管理のために「損切り」を学ぶべき時が来た(!?)と自分では思ったんです。

損切りラインをどう設定するか等、いろいろな投資系の動画やメルマガをみて、証券会社のレポートやコラムなんかでも勉強しました。それで、次のオーダーから損切り・利確も一緒に合わせてオーダーするぞ、とやってみたんです。

ちょうど2021年4月のユーロ円がレンジで変な上下をしていた時期と重なります。単純に私の損切り幅の設定が悪かっただけなんですが、損切り・利確オーダーは悉く失敗し、レンジの往復ビンタをくらい、結果的に実現しなくても良かった大きな損失をたくさん出してしまいました。かなり嫌な思いをしたので、もうたぶん損切りの練習はしません。

むしろリスク管理で学ぶべきは通貨オプションだと思っていて、最近勉強しています。オプション(間違ってもバイナリーオプションじゃありませんよ!まじでしょうもない日本の証券会社に騙されないで!!)については、ちゃんと勉強してからまた改めて記事を書こうと思います。

損切りラインを引かずにヘッジもせずにやっていたら、リスクは無限大じゃないか、とお叱りを受けるかもしれません。取り急ぎ申し入れるとリスクは無限大ではありません。単純に持っているポジションの通貨量と変動率がリスクの総量なわけで、例えば米ドルがゼロ円やマイナス円になる世界は、この先どんなことがあっても、私が生きているうちは絶対にみることはないと思います。さらに時間軸を考慮にいれれば、例えばトヨタが1年以内に倒産する確率は限りなくゼロに近いと思います。法律で自由な殺人や窃盗を認めるような先進国も、私が生きているうちは出てこないでしょう。

実際に社会の変化として「起こりうる範囲」というのは、かなり限定されていて社会科学の世界ではそれを「経路依存性」で説明してみたり、あるいは「可能性の地平」などと呼称するわけです。ちなみに全然関係ありませんが、その経路依存性の縁のギリギリを歩んで社会を変革していくことができるのが、優れた政治家だと言われています(Perヘンリー・キッシンジャー)。

話が逸れましたが、何が言いたいかというと、リスクというのは無限大ではないことと、もう一つ言えるのはどうやってもゼロにすることはできないので、最終的にどこまでのリスクを許容するか、というポリシーの話になります。そして、リスクは発生可能性×影響額なので、例えばですが、米ドルがゼロ円になる確率よりも、自分が突然いま死んでトレーディングができなくなる可能性の方が高いわけで、そんなことを考慮に入れていたら、何もできなくなってしまいます。なので、起こりうる範囲の中で、最悪の事態を考えて想定していくことになるわけです。

さて、リスク無限大とゼロを否定するのにかなり文字数を割いてしまいましたが、そうすると、トレーディングのリスクシナリオはおのずと過去に起きた最悪の事態を分析していくことになります。マーケットでいえば、リーマンショックやコロナショック、アジア通貨危機、さかのぼればオイルショックやブラックマンデーなどもあります。(いちおう、敢えてより保守的なことを言えば、過去のショックや私たちの想像をはるかに超えるようなことも、起こる可能性はもちろんゼロではないので、常に可能な限り保守的なポジションをとることを推奨します。)

つまるところ、いまの自分のリスク管理としては、何かの通貨をロングでエントリーするとき、どんなに暴落しても証拠金を吹っ飛ばすことがない量のトレーディングを基本とする、というのが最大の原則となっているかと思っています。

以上をまとめると

  • 大半のトレーダーが提唱している損切りの話は、リスク管理をする上では重要だと認識してはいる
  • 利確・損切りラインを学ぶにはコスト大きく、自分はうまくいかなかった
  • とはいえリスク管理は必要なので、最低限のリスク管理として証拠金管理(レバレッジ管理)をしている
  • リスクヘッジのため通貨オプションを活用しようともくろんでいる

4.安定こつこつ取引に

結局これが一番ですね。

この時期の残高が漸進的に増加しているのがわかると思いますが、毎日こつこつ少しずつ利益を出しています。新興国通貨を長期保有してスワップポイントをもらいながら、日々のトレードでちょっとずつ利益を出しています。

いろいろやりましたが、レバレッジは最低限にし、毎日ちょっとずつ利益を確定していくのが、結局は最強だということに行きつきました。そしてどんな通貨でも、エントリーのタイミングを根気強く待ち、自分のイメージと違う値動きならエントリーしない、あるいはエントリーしてしまったなら、それこそ傷口が小さいうちにすぐに損切りをします。

基本的に損切りをしないスタイルですが、明らかに失敗したと思ったエントリーは損が小さいうちに切るか、同値撤退くらいにはします。早期の損切りに失敗して含み損を抱えてしまったときは、他の取引で出た含み益と相殺して確証的に消去します。なお、損切りをしない、というのは本来的にはあまり良くないと思うので、真似しないでください。

成功と失敗の振り返り

これまでの取引の中で、成功した要因を要約すると、以下になります。そして失敗取引はこれらの全て裏返しでした。

  • 根拠の強いエントリーは疑わず、容易に撤退せず継続する
  • 根拠の弱いエントリーは、相場の様子を見て否定されたときは迷わず損が小さいうちに撤退する
  • 【重要】ポジションは一気に取らず、一気に切らず、徐々に作る(例えば20pips毎に5万ドルとか10万ドルずつなどの指値を入れて)
  • 【重要】含み益はこまめに利確し、再エントリーする
  • 早期の損切りに失敗した含み損は他の含み益と相殺してゼロ付近になったときにのみ確証的に消去し、ポジションを縮小していく(これを可能にするのが、上記のポジションを一気に取らない戦略)
  • ファンダメンタルズの材料があまりないときはエントリーしない
  • うまくいかないときは相場からいったん離れる(物理)

私の取引スタイルについて

■スイングトレード×ファンダメンタルズ重視

これも結局後から振り返ってみないとわからないことなのですが、結果的に実は早くから自分の取引スタイルが確立されていました。振り返ってみると、自分が継続的にちゃんと利益を出せていた取引はスイングトレード(1日内で取引を終えるデイトレードよりは長い、数日~数週間を取引単位とする)を中心とした、ファンダメンタルズ重視の戦略でした。

私は為替相場の理論的な仕組み(金利差や資本フローのはなし)を勉強した上で、実際の取引を始めたので、やはりファンダメンタルズ的思考がかなりありました。トレーダーの中には、ファンダメンタルズは市場に瞬時に織り込まれてしまうため、結局テクニカルの方が重要なんだという方もいますが、私はいずれも重要だと思います。

むしろ個人的には、テクニカル分析はあまり論理的でないので好きじゃないというのと、100人がそれぞれ異なる分析(皆が「他人と同じことをするな」と教わるので、歴戦の猛者たちはテクニカル指標のパラメータや使い方を少しずついじっている)を行う中で、経験値の浅い私がテクニカル分析だけで他の人に勝てる気がしなかったため、テクニカルは自分のトレードの中では実はほとんど採用していません

ちょうどコロナショック期にトレードを始めたこともあり、世界的に歴史上類のない規模での金融緩和が続き、株式市場の急激な下落とV字回復を目の当たりにしました。これらの大きなトレンドについては、実はちゃんと理論的に説明がつくため、相場の方向性や予測をする上では、非常に重要なことだと思っています。この理論的裏付けがあるからこそ、例えば暴落する際の具体的なリスクシナリオ(例えば市場に織り込まれていないテールリスクは、米中戦争勃発、ミャンマーの紛争がベトナム戦争のような事態に発展する、イスラエル・パレスチナが中東戦争に発展する等々)を考えることができて、そういうことがないので、今の落ちはただのテクニカルあるいはアノマリーで、必ずどこかで止まるということが予測できます。

なお、中国の規制やイーロンマスク発言によって暴落した暗号資産は記憶に新しいですが、こうした規制一つで簡単に相場がショックを起こしてしまうのが、暗号資産の弱いところですね。通貨であんなことは政治的な極限状態が起こらない限りは基本的に起こらないのではないかと思います(トルコリラとかは今の情勢から若干怪しいですが、ちょうど今日また副総裁が解任されましたね、、。)。

今後の取引の方向性

最近はコモディティ、貴金属、非鉄金属などの商品や、指標CFDもちょこっと始めてみましたが、1年間FXで慣れてしまった今の自分にとってはこれらの方がギャンブル的で少し怖いです。まあ、偏見でしょうけど。また、足元で大変な大暴落していますが、ビットコイン等の暗号資産はやりません、1日で50%下落とかまじ泡吹いて倒れるわ。

そう、結局どんな投資でもそうですが、最終的に一番重要になってくるのはリスク管理です(会計士なのに金融商品のリスク管理ガバガバとかしゃれにならんw)。これについては、前項の3.でも少し触れた通り、通貨オプション取引の活用を考えています。そのままだとリスクが非常に大きいFX取引を低コストでリスクヘッジするにはオプションが最適ではないかと思っています。今勉強中(金融工学頭痛い、、)ですので、実際に口座開設できて、取引できたらまた改めて記事を書こうと思いますので、乞うご期待です!

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根底的議論/本質的議論をしない日本の大問題のヤバさについて;「WHY」不在の世界

大切なことは、行動原理の説明。ということで当サイトをはじめた目的について、お話していきたいと思います。

それは、世界のフィルタリングビジネスやマスメディアの偏向報道に負けず、我が国の大切な課題について、私たち皆が真の意味で向き合う事ができる文化の醸成に、微力ながら貢献したいという想いからです。

取り急ぎのコンテンツの大部分はこれまで投稿したYouTube動画ですが、動画を始めた目的とも通底しています。

世界のフィルタリングビジネスとコントロールされる情報の脅威

Google、Amazon、SNSや従来型のマスメディアによって私たちが収集する情報のほぼ全てはコントロールされ、場合によっては意図的な情報の隠ぺい、脱漏、改ざんがされているかもしれません。私たちはこれから先の未来、人々が語っている事(その情報源)が、あるいは報道されている事が、実はほとんどの場合、必要な情報が意図的に切り取られて脱漏している情報である事、語る人のポジションによって歪曲されている事、場合によっては必要な情報が隠ぺいされている、あるいは最悪の場合は改ざんされている可能性がある中で、しかもそれがより強力にコントロールできるようになったこのデジタル世界で、自分自身で取捨選択していかなければならない時代に生きているのです。

私たちはメディアという窓を通して世界を眺めています。そこは、窓枠で切り取られ、必要な部分が隠されていたり、巧妙に歪められていたり、あるいは自分自身の思考の偏向によって、ありのままの世界の姿が見えなくなってしまっているかもしれません。

ハイコンテクストな社会

我が国はコンテクストの共有性が非常に高い「ハイコンテクスト」な文化圏として知られています。ちなみにコンテクストの共有度でいえば、我が国は世界で最もハイコンテクストな文化圏であり、その対極に位置するのが米国です(下図参照)。

「コンテクスト」とは日本語で「文脈」と訳されますが、コミュニケーションの基盤となる「言語・共通の知識・体験・価値観・ロジック・嗜好性」等のことで、主に共有時間や共有体験に基づいて形成される傾向が強く、「同じ釜のメシを食った」仲間同士ではツーカーで気持ちが通じ合うことになります。

しかし、その環境が整わないと、今度は一転してコミュニケーションが滞ってしまう傾向にあります。お互いに話の糸口も見つけられず、会話も弾まず、相手の言わんとしていることがつかめなくなってしまうのです。我が国においては、「コミュニケーションの成否は会話ではなく共有するコンテクストの量による」ことと、「話し手の能力よりも聞き手の能力によるところが大きい」とされています(参考:株式会社パンネーションズ・コンサルティング・グループ『ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化』)。

すなわち我が国のコミュニケーションは、言語依存度が非常に低く、言わなくても通じ合う「察しと思いやり」文化が根付いているのです。これは文化的な美しさでもありますが、同時にコンテクストが共有できていない主題になった瞬間に、一転してコミュニケーションがうまくいかない事態に陥ってしまうということでもあります。

High-Context vs Low-Context

根底的な議論をしない

ここで例えば、原発を巡る議論、憲法9条を巡る議論等の国論を二分するようなテーマに目を向けてみると、これらの諸問題に関する諸議論は悉くと言っていいほど、平行線をたどり、何が「望ましい」のかについての根底的な議論に全く達していません。ほとんどの主張は感情的に互いに自分の意見を主張するだけに終始し、その先の発展がないと感じているところであります。

本来、これらの国家のデザインを大きく左右するような大問題を巡る議論については、文化的コンテクスト共有度に依存することなく、立場や主張の違いを超えた幅広い議論が必要です。

しかし、巷で散見される人々のSNSの発信や井戸端会議レベルの会話から、ビジネスシーン、我が国の中枢を担う国会や官僚に至るまで、根底的な「望ましさ」に関する議論をせず、お互いに思考停止した自己目的的な主義主張を行っていると思えてならないのです。これは大変残念な事であり、こうした根底的議論を行わない文化が、実は現代の我が国を取り巻く「閉塞感」の大きな源になっているのではないかと思っています。どう考えたらいいのか自分なりの答えがわからない、モヤモヤした霧がずっとかかっているのです。

もちろん、原発にしろ9条にしろ、それぞれ立場や主義主張がある方々もそれなりにはいますが、実際のところは、おそらく多くの方々が、本当のところどちらが良いのかわからない状態なのではないかと思っています。仮に今国民投票をする事になった場合、きっと多くの方々はどちらに投じたらいいかわからず途方に暮れるのではないでしょうか

ビジネスシーンや学術レベルでも根底的議論をしない?

前の拙作動画/blog(これからの経済成長と正義について)でも少し触れましたが、例えばリベラリズムの本家アメリカでは非常に活発にロールズの研究と批判は進んでいますが、日本ではロールズ自体の研究はされているものの、ロールズを政治哲学として正面から批判する学術的レベルでの試みは一切ありません(Per:『リベラリズムとは何か ロールズと正義の論理』(2007.11)より。新書などの一般的書籍レベルでの論考しかない)。その意味で、例えばリベラリズムなどの代表的な政治哲学について、すなわち社会の「望ましさ」に関する根底的な議論もアカデミズムのレベルでさえ、きっちりできていない可能性があります。

これは我が国の文化は極めて「ハイコンテクスト」である一方で、おそらく教育トレーニングのアプローチは「Applications-first」(帰納的アプローチ)で、それが学問の世界でもその基礎をなしていることが一つの原因だと思っています(下図におけるJapanがApplication firstに属しているというのはErin Meyerではなく、私の解釈)。例えば数学の授業では、初めに公式を与えられ、それを応用する練習を何度も何度もさせられ、その後もし必要があれば背景にある概念や原則を教えられます。一方、ラテンヨーロッパやラテンアメリカの国々の教育は「Principles-first」(演繹的アプローチ)と呼ばれ、数学の授業では、まず初めに一般原則を証明させられ、それを用いて公式を導き出すトレーニングをさせられ、それから様々な問題を解かされます。あるフランス人は「パイ(円周率)を数式の中で使用する前に、パイの値を計算しなければならなかった」と言っていたそうです。

さて、「Application-first」の教育トレーニングを積んだ我が国における多くのビジネスマンは、まず初めに結論をExecutive Summaryや箇条書きにして簡潔に説明してから、その具体的な内容などを話すように指示されます。結論を導き出した背景や概念的説明、調査アプローチなどの説明は、必要があればする程度です。ディスカッションは実務的で具体的なアプローチでなされ、理論的・哲学的な議論はビジネスシーンでは避けられる傾向にあります。

これはおそらく我が国の「Application-first」な教育体系(おそらくアングロサクソン系の教育体系を参考にしている)に深く結びついていると考えられます。まず結果や結論、効果などを説明することが求められ、結果へのコミットが重要視され、その結論の背景や論理構築過程などは軽視される傾向にあります。日本の公認会計士試験の勉強でも、とにかくひたすら簿記や原価計算の問題を練習するところから始まります。会計学は論述よりも計算問題に時間と配点が割かれ、少しでもより素早い正確な計算を行えるよう、右利きの人は電卓を左手で打ち右手でペンを持ち答えを書きこむ修行のようなトレーニングが必要です。ちなみに、我が国(及び米国も)の伝統的な企業会計基準もこの「Application-first」の典型例で、会計基準は既存の実務の世界で一般に公正妥当と目されている会計処理実務を集約したものです。法体系はCivil law(大陸法:演繹的)とされていますが、こうした帰納法と演繹法の折衷的な仕組みが、我が国の複雑で微妙な制度・文化体系を築き上げてきたのだと思料いたします。

さらに、ビジネスシーンにおける文化的な特徴として「Holistic culture」*(Holistic: 個々の物事を個別にではなく、全体として取り扱い、環境や個々の物事が相互依存的に影響しあうことを考慮する事で、Erin Meyerによればアジア圏の組織文化は「Holistic culture」とされ、欧米圏の「Specific culture」と対比されます)である事や封建的な組織文化等が、この根底的議論をしない傾向をさらに強めているのではないかと思っています。すなわちビジネスシーンでは、個々の事柄それ自体よりも他の物事との相互依存関係を重視し、いわゆる「根回し」や「忖度」などと表現されるように、他の部門や他者への影響などを全体として検討しながら合意形成していく傾向があります(ちなみに、こうした根回しによる日本的なディシジョンメイキングは合意形成型と呼ばれ、米国や中国(Erinは中国も日本もいっしょくたにAsiaとして「Holistic culture」だとしていますが、私はさらに大陸と島国とで組織文化は異なると思っています)におけるトップダウンな傾向とは少し異なり、日本も封建的でトップダウンなんですが、一応ポーズとして話は聞くし、関係者に事前に通しておく文化です)。さらに、封建的で上意下達的な文化により、まさに上司の命令を鵜呑みにして、作業に取り掛かるサラリーマンが大量生産されてきたわけです。そしてその時私たちは、その業務を行う背景や理由「WHY」ではなく、如何に効率的かつ正確に当該業務を処理するかの「How to」に集中するのです。

*例えばとある企業のアングロサクソン系の2つの子会社(二つは同じ国にあるが物理的に離れている)で、ある特定の取引について、それぞれ別の会計処理をしていました。現地のビジネス文化では、特定の問題は個々に切り離して判断するので、それぞれ「正しい会計処理」を行った結果、全く別の出来上がりになってしまいました。ところが、グループ親会社である日本の本社及び日本の監査人サイドは、同じ取引に別の会計処理を行っているのはいかがなものか、と問題になりました。予想がつくかもしれませんが、現地法人(及び現地の監査人)からはそれぞれ別の会社だから別の会計処理になっているのでは(自分には関係ないけど)、といった具合の回答です。こうした日本側の反応のように、一つの事象に対して他との整合性や他への影響を考えるという文化が、「Holistic culture」と呼ばれます(Erin Meyer 『The Culture Map: Breaking Through the Individual Boundaries of Global Business』より)。

まとめると、我が国のコミュニケーションは「ハイコンテクスト」である一方、教育・アカデミズム及びビジネスシーンでは「Application-first」な特徴があるため、高いコンテクスト共有性を基礎にしながら、結論や行動にいきなり移ってもビジネスが円滑に回る環境でした(過去形)。また、「Holistic culture」なため、物事を全体的な整合性という観点で考える傾向が強く、一つの判断や結論が他に及ぼす影響を考慮する一方で、個別の具体的な事象について根底的に深く掘り下げて考えない傾向が強いと考えられます。また、封建的組織では、上司の命令を素早く受容し実行することが求められ、その命令の理由や背景ではなく、とにかく業務をいかに正確かつ効率的にこなすかという方法論に集中する事が求められます。

要するに、我が国の人々は、「ハイコンテクスト」な文化と「Application-first」な教育により、実は知らぬ間にズレているのに、コンテクストが共有されていると思い込みながら、根底的議論を避け、とにかく結論と結果にコミットするようにトレーニングされているのです。そしてそれは、ビジネスシーンでも、アカデミズムのレベルでさえも通底してしまっているのだと思料しています。

そして、こうした文化的教育的背景のために、例えば9条や原発等の極めて重要な問題に関して、実は根底的な想い(WHY)の部分がズレていることに気づかぬまま、方法論(HOW)や具体的な手段や結果(WHAT)についての議論に終始しているように思えてならないのです。9条にしろ原発にしろ、そもそも私たちはどんな社会を目指しているのか、「望ましい」社会とはいったい何なのかについて、大変残念なことに我が国は、産業も、学問も、政府も、そして宰相でさえもしっかりとしたビジョンを示せずに突き進んできたのだと思います。

課題感と当サイトを立ち上げた原動力について

我が国を含む現代社会においては、Diversity & Inclusion(社会的包摂)が大きなテーマとなっているように、かつての文化的共有度は大きく低下し、社会を構成する人々が「同質的な人々」から「多様な人々」が拡大していく時代に変化してきています。こうした時代背景から、これからはやはりこうした大切なテーマについて、きっちりとしたファクトベースで「望ましさ」の探求を含む「根底的議論」を行う文化の醸成が喫緊の課題であり、この取り組みなくして、我が国の「閉塞感」の打破と、将来における政治的社会的あるいは経済的な成功はありえないと、非常に強い危機感を持って思っているところでございます。

(ちなみに全然関係ありませんが、「多様性」の拡大は、産業革命期のヨーロッパで、租税の仕組みに「応能原則」を取り入れていった時代の変化を連想させます。これも租税をテーマにそのうち何か書こうと思っています。)

また、冒頭で言及した巨大テックメディアや従来型のマスメディアによる情報のフィルタリング(脱漏や切り取り)や歪曲(最悪の場合、改ざんを伴う)によって引き起こされる不正確な議論も、我が国における根底的な議論をさらに妨げる要因となっているのです。

こうした課題感から、当サイトの立ち上げと、「望ましさ」を考えるYouTubeの動画制作に至ったところであります。もちろん、私の一方的な情報発信だけでは当然議論は進みませんので、双方向的で”本質的な”議論を行うことができる場をデザインしていくことが、次のステップかと思っています。

根底的議論をしないと何がヤバいのか?

前の拙作動画/blogでも触れましたが、社会科学を人類の社会的な「望ましさ」を達成するための学問であるとした場合、その思考順序は、まず何が「望ましい」のかを考えて、それから「望ましさ」をどうやって実現するかを考え、具体的に何をすれば「望ましさ」を実現できるかに至るという一連のプロセスになるはずです。要するに、「WHY:なぜ」、「HOW:どうやって」、「WHAT:何を」すべきかという思考順序であり、根底的議論とはこの「WHY」を探求することだと思っています。

ではこうした根底的議論を行わないとどうなるのでしょうか?同様に前の拙作動画/blogでも触れましたが、現代社会において「新自由主義」が行き詰っている原因と通底するところで、「なぜそれが望ましいのか」が分からない状態で突き進んでいくことになり、「望ましさ」を達成するための方法論(HOW)や手段(WHAT)が目的化し、方向感が失われていくことにあると思っています。

「新自由主義」には、「社会のあるべき姿」や「望ましさ」への問いはありませんでした。望ましい社会状態への問いは保留されたまま、物質的資本主義的な発展を遂げていくことになりました。自生的秩序は自生的であるが故に「良いものだ」とする判断は、その状態が望ましいかどうかについての反省的回路を欠いています。例えば「経済成長しているのだから、新自由主義は望ましいのである(経済成長=望ましい社会状態)」という前提を暗黙のに置いているのですが、そこには「なぜそれが望ましいのか」という思考がありません。経済成長や人類社会の発展と、個々の人々の幸福は必ずしも結び付いていないからです。

では具体的に根底的議論やあるいは本質的議論とはいったい何なのか、どうあるべきなのでしょうか。それについてはまた別途、具体例を検証しながら書いていきたいと思います。

■参考リンク

【参考文献】

  • Erin Meyer 『The Culture Map: Breaking Through the Individual Boundaries of Global Business』
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Corporate Finance Economy FX IMF WEO Market

日経続落(Nikkei continued to fall)

昨日に続き、世界の株式市場は軟調で、特に日経は本日も2%近く下げ、二日で5%近くの大幅な下げでした。

World stock market was weak and rather weaker Nikkei that continued to fall today by about 2% and around 5% drop comparing to two days ago.

Linkは下記。左の画像は2021.5.13.00:25時点の切り抜きです。

https://sekai-kabuka.com/

日経は今までの株高の調整もあると思いますが、主要国市場よりも大幅な下落です。日本円も非常に弱いので、やはりコロナワクチン接種の遅れが、主因ではないかと思います。

The larger decrease in Nikkei than world market seems due to the delayed vaccination for COVID-19.

2021年4月26日時点で、日本のワクチン接種比率は人口のわずか1.64%で、先進国では既に英国が50%に迫り、米国も40%を超えています。あの感染大爆発を起こしているインドさえ8.7%接種していて、途上国や低所得国もはるかに下回る水準となっているのが、残念ながら我が国日本でございます。

Japanese vaccination rate is only 1.64% comparing to 50% in the UK, 40% in the US and even below India of 8.7% (as of 26 Apr 2021).

https://ourworldindata.org/covid-vaccinations

少し本題から逸れましたが、前の動画でもご説明した通り、今後の経済回復予測における最大のリスク要因はワクチンの接種スピードです。

Back to the subject the main risk factors in the economic recovery is the race between virus and vaccination that I mentioned in the previous YouTube movie.

つまり日本経済はいまIMFのシナリオから下振れしつつある状況で、日経が調整に入ったのではないかと思います。そして調達通貨(金利があげられない円で借りて、次に金利が上がりそうな外貨を買う、つまり円売り)としての需要の呼び水となっているのではないかと思われます。

Then, I guess this drop is triggered by the belated vaccination in Japan, which seems to fall behind the main scenario in the IMF WEO update Apr 2021.

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Audit Fraud Prevention Internal Control Management

企業不正とリスクマネジメントについて;コロナ禍で不正は増える

YouTube動画を公表しました!

今回は私が普段監査の世界を通じて触れている最も恐ろしいリスクである企業不正をテーマにしました。

主に一般社団法人日本公認不正検査士協会(以降ACFEと呼称します)による不正に関するレポートを中心に、不正の理論的な特徴と実際の犯行形態や被害額、発見方法などの実態を把握していきながら、今般のコロナ禍で留意すべきこと、リスクマネジメントの手法に至るまでご説明いたします。

企業不正の実態について

企業不正は繰り返され、法規制等も強化されてきましたが、不正は依然として増加しています。上場企業における不正発生割合は全体の1/4に上り、資産の横領、不正な財務報告は後を絶ちません。

財務諸表不正による損害額は他の不正類型に比べて多額で、大規模組織に比べて小規模組織の損害額は約2倍です

85%の不正犯行者は、不正実行中に少なくとも一つは行動に兆候が表れるとされています

不正は通報による発見が最も多く、早期発見によって被害額を少なくするためにも、通報制度の整備が非常に重要です

不正の顛末は、実行者・被害組織共にたいてい悲惨な結末となります

コロナ禍で留意すべきこと

一般経済環境の悪化とそれに伴う業績の悪化は、経営上の目標達成のための動機・プレッシャーを高めます

通常の内部統制が実施できないことは不正の機会を増大させる恐れがあります

不正対策の専門家たちは、不正の発生頻度はさらに増えると予測しています

リスクマネジメントと内部統制

内部通報制度の整備や不正防止ポリシーの制定、不正防止の研修等は多くの企業が取り組んでいます

不正を実行する「動機・プレッシャー」は、適正な財務規律の維持、状況に応じた目標の見直し、適切な投資家・債権者・従業員等とのコミュニケーションが重要です

不正を実行する「姿勢・正当化」は、全社統制を整備・運用することで低減することができます

不正を実行する「機会」は、内部統制を整備・運用することで低減することができます

【参考文献】

・デロイトトーマツ 『企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey』(2018-2020及び2020-2022 一部抜粋版)
・デロイトトーマツ 『企業の不正リスク実態調査 Japan Fraud Survey 2016』
・一般社団法人日本公認不正検査士協会 『職業上の不正と濫用に関する国民への報告書 (日本語版)』(2018年版2020年版
一般社団法人日本公認不正検査士協会 『不正に対する新型コロナウイルスの影響 ベンチマーク レポート (評価報告書)』(2020年12月版)
一般社団法人日本公認不正検査士協会 『Fraud Risk Management Guide – Exective Summary 日本語翻訳版』

ご自由にダウンロードください。動画・資料等を無料でご利用いただいてもかまいませんが、営利目的でご利用される際は必ず私までご一報ください。社内研修等も承っております。

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Economy Education IMF WEO Politics

アフターコロナの経済について;IMFレポートによる今後の経済の見通し

YouTube動画を公開しました!

IMFがWorld Economic Outlook, April 2021を公表しました。今般のCOVID-19パンデミックで世界経済に起こったことについて、体系的にまとめられていますので、内容を要約してお話しています。

COVID-19パンデミック下で世界経済に起こったこと、そしてこれから先に起こる事、今後の経済で留意すべき事等をお話していますので、是非ご覧ください。

世界経済に起こったこと

  • コロナショックは産業領域及び経済圏によって、不均衡な悪影響を与えました。いわゆるエッセンシャルな領域(消費財、飲料食料品、インフラ、医療、警察、国防など)やアウトドアサービス以外の、高度の接触を要するサービス関連(”High-Contact, Affected”、レストラン、ホテル、旅客運輸、物理店舗lの小売など)が最も大きな打撃を受け、途上国の経済損失は先進国よりも深刻です。
  • 過去のパンデミックや経済危機よりも、経済収縮は急激に起こり、特に”High-Contact, Affected”が深刻な打撃を受けました。また、産業連関における負の波及効果をもたらすと予想されます。
  • 中期(向こう3年)の経済的損失は、先進国・途上国でリーマンショック期より少ないが、低所得国ではリーマンショックよりも大きな損失を被ることが予測されています。
  • ”High-Contact, Affected”セクターにおける雇用が最も大きく減少し、先進国より途上国の方が深刻です。過去の不況期の平均的特徴(建設業や製造業が最も大きく減少)と異なり、特に小売・卸、ホテル、レストラン、旅客運輸及びエンタメ関連での雇用減少が顕著に見られます。また、これらは自動化されやすい業態として、 パンデミック前からの潮流が加速し、さらなる雇用の減少が見られます。

After コロナの経済について

  • 多くの大切な命が失われました。たくさんの方々が職を失い、特に女性や若者、貧困国の人々はより大きな経済的損失を受けています。経済的な格差はグローバルなレベルで今後さらに進行することが予測されます。
  • 教育は中断し、学生たちは長期にわたって学校に通うことがかないませんでした。学校閉鎖は社会の人材育成を阻み、社会経済に深い爪痕を残す恐れがあります。
  • リーマンショックをはじめ過去の不況期と異なり、企業破綻の数はコロナ禍で減少しました。
  • 一方、前例のない規模の財政・金融支援政策により、世界の中央銀行の資産は極端に膨らんでいます。今後、政府及び中央銀行はこれらの膨らんだ資産(不良債権を含む)の処分に悩まされます。コロナ禍の終息と共に、これらの資産の処分とゾンビ企業の支援継続との間で、各国政府は判断を迫られて行く事になります。

やはり、注目すべきは政府及び中央銀行における金融緩和の縮小(テーパリング)でしょう。既にカナダの中央銀行はテーパリングを決定していて、リーマンショック期と異なり経済回復が急激に起こっている現実からすると、欧米各国(特に米国、英国、豪、NZ)では次にテーパリング、金利引き上げ、B/S縮小はもうすぐそこまで来ている可能性があります。

そしてそんな中でワクチンの接種比率が後進国以下の日本では、大変残念ながら経済回復は確実に立ち遅れていくと思います。

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【参考文献】

International Monetary Fund 『WORLD ECONOMIC OUTLOOK UPDATE』(2021.4)

・UNESCO Website : https://en.unesco.org/covid19/educationresponse#durationschoolclosures

International Monetary Fund 『Global Financial Stability Report』 (2021.4)

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